材木利用を強化し、カーボンニュートラルを確実に

小林光のエコめがね(4)

筆者は京都議定書交渉の時に日本の森林の吸収量を教えてもらい、何ともはかないな、と思った記憶がある。1年間の森林吸収量合計は当時の全国排出量に比べ7.6%程度であったと記憶する。

小林光のエコめがね

削減目標が6%であれば、この吸収量を多少増やすことでも貢献ができる。しかし、2050年には脱炭素をしないとならない。この7.6%相当の吸収量が、カーボンニュートラル達成の可能性を左右しかねない状勢になってきた。日本のCO2の半分は、燃料として燃やされる化石燃料起源のものである。

こうした熱利用で特に高温が必要なものは、電気への振り替えができない。航空機燃料もグリーン化には時間が掛かろう。

したがって、電気を再生可能エネルギー由来の物に切り替えても、最後に残された高温熱利用などに伴うCO2排出は、CCSで埋めることができなければ、森林吸収で相殺するしかない。カーボンフリーとして計算されるバイオマス発電も、あまり性急に大規模に行うと、この大切な吸収量を減殺してしまう恐れもある。

7.6%の吸収を将来にわたって維持し、あるいはさらに増やす上では、バイオマス発電ではなく、炭素を貯留する形での木材の利用拡大とその利益の山元への還流が必要になる。ちなみに、COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)のホスト国、イギリスの、最新の政策方針、10ポイント・プランでも、その1項目は、森林などの自然環境を持続可能な形で利用する政策に当てられている。

国産材の需要増、好機を生かすには

そうした中、折からのコロナ禍で、木材の供給が世界的に滞り、国際木材価格が高騰しだした。国産材にとっては絶好機である。ここで、好機を生かす算段を考えてみよう。

林業が持続可能になるには、林業への利益配分が増えなければならない。他方で、末端の木材価格の上昇は、木材需要自体を縮小させてしまう。そうなると、決め手は一つ。木材を利用可能な形にするための製材・加工技術の経済性の革新がソリューションとなる。

筆者は、福島・会津を訪れた。角材を縦に使い緊結してパネル状の壁面材を作り、構造材の間に埋め込んでいく工法(縦ログ工法)を開発しその普及に力を入れている芳賀沼製作(福島県会津町)を見学するためである。

じっくりとした乾燥と摩擦の大きなスクリュービスといった、ローコストな加工のため、消費者にとって手が届きやすい価格の木材製品に仕上がっていた。耐震上も断熱上も良いに決まっていて、日本では特に重要な防災対策や、一気に強化されつつある建築物環境対策にもマッチしていた。

技術が出尽くしたと思われる伝統的な業界にも知恵のある企業があるものだと感心した。こうした製品が通常の住宅だけではなく、中層高層の建築物にも使用可能になるような法制上の対応を急いで、ビジネスチャンスを花開かせてもらいたい、と思った。

hikaru

小林 光(東大先端科学技術研究センター研究顧問)

1949年、東京生まれ。73年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、環境庁入庁。環境管理局長、地球環境局長、事務次官を歴任し、2011年退官。以降、慶應SFCや東大駒場、米国ノースセントラル・カレッジなどで教鞭を執る。社会人として、東大都市工学科修了、工学博士。上場企業の社外取締役やエコ賃貸施主として経営にも携わる

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