暮らしから考えるサステナビリティ(1)
コロナ禍は、現在の社会システムの脆弱さを露呈させ、この数年かけて改善傾向であった世界の「貧困」と「飢餓」を再び深刻化させた。わたしたちは目の前の医療や経済を守るために対応を余儀なくされているが、その行為のいくつかが次のパンデミックと気候変動のリスクとなりえることを知っておかなければならない。(照井敬子)
複雑に絡み合うグローバルリスク
パンデミック、貧困、気候変動などのグローバルリスクは、それぞれ複雑に絡み合っている。過去20年間で人類が経験した感染症の脅威は6つ。「SARS(2002)」「新型インフルエンザ(2009)」「MERS(2012)」「エボラ出血熱(2014年)」「ジカ熱(2016)」、そして現在の「新型コロナ」である。
直接的な原因は、野生動物に寄生したウィルスであることが知られているが、その背景には、文明社会の急激な発達に伴う無秩序な土地開発や生態系の破壊、工業的畜産への依存などが挙げられる。これらはもちろん気候変動の要因でもある。感染症の蔓延や気候変動は、まず初めに脆弱な立場の人々の暮らしや生命を直撃する。
コロナ禍で逆戻りした使い捨てへの依存
時短要請や会食制限のため、飲食店はテイクアウトに力点を置かざるを得なくなり、使い捨て容器やプラスチックのカラトリーの消費量は大きく増加している。感染対策の要と言える不織布マスクはプラスチックを原料とし、コロナ対策のため世界中で約1290億枚/月がゴミになっている。
世界的な経済悪化により原油価格が低下したことで、さらに低コストで新たなプラスチックを製造できるようになり、リサイクル原料のニーズが大きく落ち込んでしまった。
肉食への傾倒
コロナ禍にあえぐ居酒屋チェーン等の起死回生策として焼肉屋への業態転換が目立った。畜産は温室効果ガスの主な発生源であるだけでなく、家畜飼料の需要増加が貧困層の食糧供給や食糧価格へ悪影響を及ぼし始めている。けっして肉食を悪としたいのではない。しかし、このまま「食べ放題」や「低価格」を訴求する、いわゆる大量生産・大量消費を前提とした工業的畜産を続ければ、プラスチック産業と同様に、格差や気候変動を大きく加速させてしまう。
価値観をアップデートする
ジェンダーやハラスメントなど人権に関するテーマにおいて後進国の日本でも、ここ数年で価値観のアップデートが進んでいる。暮らしや生命は最も基本的な人権であり、それを支える地球環境である。いまのコロナ禍を乗り越えるとともに、新たなパンデミックを発生させないために、気候変動を最小限に抑えるために、わたしたちはどのような新しい社会を目指すのか、しっかり考えてアップデートしなければならない。