エプソン、日本最速の電力脱炭素化と個社超えた大志

小林光のエコめがね(5)

小林光のエコめがね

つい最近、松本平にある、セイコーエプソン社の広丘事業所(長野県塩尻市)を訪ねた。北アルプスを望める良い景色の所に伸び伸びと研究棟などの建物が広がっている。執務環境は大事だ。この眺望だけでも、仕事に大きな展望が生まれてくるように感じた。

同社は、去る3月16日に、日本の国内の拠点(賃貸で入居しているような事務所を除く)の電力起源CO2排出量を2021年度内にゼロにすることを発表した。

国内の有名大企業では、「RE100」(事業活動の使用電力を100%再生可能エネルギーにすることを目指す国際イニシアティブ)にコミットする会社が続々と出てきているが、その達成期限としては最速である。

同社の環境担当部長の木村さんに聞いたところによれば、経営陣から、取り組む以上、世の中の動きが急速に進んだとしても同社の取り組みがビハインドすることにならないよう、十分高い目標を掲げるように厳命された由である。

ちなみに、同社は、環境屋さんのジャーゴンで3冠王と呼ばれる、情報公開(TCFD)、科学に基づく目標設定(SBT)そしてRE100の3つすべてに参加することになった。

同社のこの目標はSCOPE3のものではない。全体の排出量で見ると、大略、SCOPE3上流が40%、SCOPE3製品使用段階の下流が45%程度のようで、今回は、残りの10%強のSCOPE2部分のゼロ化が目標である。

その達成は確実で、既に過年度から、排出係数ゼロの電力の購入を着実に増やしてきた実績があり、決め手は、中部電力の水力発電電力の長期購入契約にあるとのことである。

同社が特に意識したのは、長期契約を結ぶことによって、単価は引き下げられる一方、電力供給側では、販売見込みが確実になるので、脱炭素電源確保のための投資も自信をもってできるようになる点だ。

地域に、こうしたポジティブな取り組みの連鎖が生まれるよう、電力の買い手として役割を果たそうと考えたそうである。民間版FITというべきか、あるいは、ハワイ電力の進める20年、流し込み自由の(しかし、日没後4時間は供給責任がある)PPA(電力購入契約)と言うべきか、優れた取り組みだと思った。

こうしたSCOPE2の上流とのウィンウィンな関係を発展させて、同社としては、SCOPE3の上流部に位置する諏訪地域の中小企業の脱炭素化にも役割を果たすことを考えている。地方に拠点を置く世界的企業として、素晴らしいエコシステムを築いてもらいたいものである。

hikaru

小林 光(東大先端科学技術研究センター研究顧問)

1949年、東京生まれ。73年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、環境庁入庁。環境管理局長、地球環境局長、事務次官を歴任し、2011年退官。以降、慶應SFCや東大駒場、米国ノースセントラル・カレッジなどで教鞭を執る。社会人として、東大都市工学科修了、工学博士。上場企業の社外取締役やエコ賃貸施主として経営にも携わる

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