新型コロナと「がん対策」とSDGs:日本対がん協会

新型コロナ禍は、がん患者にも深刻な影響を与えている。がん検診の受診者は昨年、前年比で3割も減り、日本対がん協会の石田一郎常務理事は「今後、進行がんの状態で見つかることを危惧する。同協会は今年4月、SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みを紹介するページを公開した。石田常務理事にがんを取り巻く状況とSDGsについて聞いた。(オルタナ編集部・山口勉)

石田一郎常務理事

――新型コロナ禍で、がんを取り巻く状況にも大きな変化が出ていますか。

「大きな変化があります。2020年にがん検診の受診者は前年から3割も減りました。コロナ禍の中でも、がんは待ってくれません。検診を延ばすことで数年後に進行がんの状態で見つかる方が増えることを危惧しています」

「今までは家族の面会を受けられたがん患者たちが孤立しています。がんで苦しむ人や悲しむ人をなくすための活動が今ほど大事な時はありません」

「当協会は個人や企業の寄付や支援で運営されています。是非、一緒に行動の10年に踏み出しませんか。お力をお貸しください」

――日本対がん協会はどんな組織なのでしょうか。

「1958年設立の公益財団法人で、民間の立場でがん対策に取り組んできました。『がんで苦しむ人や悲しむ人をなくす』ことが事業の目的で、1)がん予防・検診の推進 2)患者・家族の支援 3)正しい知識の普及啓発――という3つの柱で活動しています」

――いま日本のがんの状況はどうなっていますか。

「日本では、生涯2人に1人ががんに罹患する状況です。年間約100万人が新たにがんと診断され、毎年38万人が亡くなっています。日本人の死亡原因の第一位です」

「今では医療や社会の進歩によって、ヘルスリテラシーを持ってしっかり対応すれば、『がんとの共生』が可能な時代です。にもかかわらず、がんと聞くと『怖い』『自分には関係ない』と、がんの話題を避けたりする人々が多いのです」

ホームページではSDGsへの取り組みが分かりやすく説明されている(クリックでページへジャンプします)。

――SDGsへの取り組みをホームページで発信し始めた経緯は。

「日本対がん協会のパーパス(存在意義)は「がんで苦しむ人や悲しむ人をなくしたい」ということです。これはSDGsの重要なフレーズ『だれひとり取り残さない』と方向が同じだと気づいたのです。我々が取り組む社会課題が解決されなければ、だれひとり取り残さない社会は実現できません」

「そこで、SDGsのコミュニケーションツールとしての機能に着目して、協会の取り組みをSDGsの文脈で整理すれば、いろいろなセクターの方々とつながって、一緒にゴールをめざせるのではないかと考えました」

――自組織の取り組みを、169あるターゲットから、該当する16に絞り込むのは大変な作業だったのでは。

「企業がSDGsに取り組むとき、自社の取り組みはどのゴールに関係しているかと紐づける作業から入る場合が多いようです」

「当協会は、逆に『SDGsのそれぞれのゴール達成に、我々が取り組んでいるどの活動が貢献しているだろうか』という視点で考えました。公益活動を行うことがミッションの組織だからこそ、このアプローチが可能だったと思います」

「対がん活動は、SDGsでいうとゴール3の「健康と福祉」にばかり関係するものだと思われるかもしれませんが、がん患者の就労の問題は社会問題でもあるのです」

「がん治療費が高額になると国民皆保険制度が崩壊するかもしれないという経済問題でもあります。重層的な社会課題の解決があってこそ、がん征圧に近づくことができるのです」

――今回のSDGsへの落とし込みで、新たな発見はありましたか。

「実際、169ターゲットを子細に読み込むと、17のゴールを眺めているだけでは気づかなかったことがたくさん発見できました」

「たとえば、SDGsゴール2は『飢餓をゼロに』です。今までは、私たちの活動とは関係ないと思っていましたが、ターゲット2-2は『2030 年までに、あらゆる形態の栄養不良を解消し、成長期の女子、妊婦・授乳、高齢者の栄養ニーズに対処する』とあります。抗がん剤治療中に食欲が落ち、栄養不良になってしまう患者に向けてのサポート活動は、まさにこのターゲットの解決に資するものだと気付きました」

「他社の皆さんにも、是非169のターゲットを読み込むことをお勧めします。きっと皆さんの取り組んでいることがSDGsとつながっていることに気づくのではないでしょうか」

――SDGsの発表後、外部からはどのような反応がありましたか。

「特に企業の方から、一緒にSDGsに取り組みたいという話をいただくようになりました。また、がんに関心がなかった方からも、目的が同じなので協働したいと連絡をもらうなど、コミュニケーションの幅がひろがったのを実感しています」と答えた。

――企業や組織にとって、SDGsはどんな存在だと思いますか。

「SDGsは『共通言語』ですね。これまで気づかなかった、互いの共通点がSDGsを介することで見出しやすく、また理解しやすくなります」

2030年に向けた「行動の10年」、SDGsをコミュニケーションツールとして見ると新たな発見がありそうだ。

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山口 勉(オルタナ副編集長)

大手IT企業や制作会社で販促・ウェブマーケティングに携わった後独立。オルタナライターを経て2021年10月から現職。2008年から3年間自転車活用を推進するNPO法人グリーンペダル(現在は解散)で事務局長/理事を務める。米国留学中に写真を学びフォトグラファーとしても活動する。 執筆記事一覧

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キーワード: #SDGs

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