MUFG実質ゼロ宣言、NGOが「パリ協定と整合を」

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は5月17日、「MUFGカーボンニュートラル宣言」を公表し、2050年までに投融資ポートフォリオの温室効果ガス排出量をネットゼロにすることなどを発表した。これを受け、気候ネットワークなど環境NGO4団体は5月18日、この宣言を歓迎する一方で、パリ協定との整合性を求めて株主提案を続けることを表明した。(オルタナ副編集長=吉田広子)

MUFGは、カーボンニュートラル宣言の一環として、国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)が4月に設立した「Net-Zero Banking Alliance(NZBA)」への参加を決めた。NZBAは、2050年までの投融資ポートフォリオのGHG排出量ネットゼロにコミットする銀行のイニシアティブだ。

MUFGは、気候変動への対応に全力で取り組み、「世界が進むチカラになる。」という存在意義(パーパス)に基づいた具体的な行動計画を策定する。自社の脱炭素化だけではなく、顧客の脱炭素化に向けた取り組みやイノベーション技術への支援を一層拡大していくという。その一環として、2050年までに投融資ポートフォリオの温室効果ガス排出量をネットゼロにすることなどを発表した。

意欲的な方針だが、環境NGOらは短・中期の目標の設定や石炭火力発電からの撤退などに関して懸念を示している。環境NGO4団体が発表した声明は次の通り。

今般のMUFGの発表は先月のポリシー改定に続き、3月に気候ネットワークおよび他環境NGO3団体に所属する個人株主3名(以下、共同提案者)が、MUFGに対してパリ協定の目標に沿った投融資を行うための計画を決定・開示することを求めた株主提案を提出した後に発表されました。

環境NGO4団体は、MUFGによるパリ協定の目標に向けた方針強化を一定の前進と受け止め、歓迎します。

しかし、本方針では株主提案が要求する具体的な指標や短・中期目標が示されず、なおパリ協定との整合性が取れていると判断することはできません。共同提案者はMUFGへの株主提案を継続することとし、引き続きMUFGへのさらなる行動強化を求めていく予定です。

以下は、各目標およびセクター別方針における主な課題点です。

■短・中期の目標の設定は先送りに

MUFGは邦銀として初めて、2050年にファイナンスによる排出量をネットゼロにするカーボンニュートラル目標を公表し、同目標を掲げる国際的イニシアティブのNet-Zero Banking Alliance(NZBA)への加盟を発表しました。

2050年ネットゼロは気温上昇を1.5度に抑えるために必要な長期目標であり、日本政府が掲げた目標でもあります。気候危機を加速する化石燃料へ資金提供を行うアジアのトップ銀行であるMUFGがネットゼロにコミットしたことは歓迎されます。

しかし、短・中期の目標を設定することなしに、「2030年の中間目標は2022年度に設定・公表する」と表明することに留まっています。気候変動の緊急性、並びに、1.5度目標達成のためには2030年までの排出量半減が必要という科学的コンセンサスを鑑みれば、MUFGが短・中期の目標を今回掲げなかったことにより、パリ協定の整合性を確認することができないままであることは懸念されます。

また、目標の達成のためには、全ての投融資ポートフォリオのGHG排出量(Scope3)の計測・公表が必要ですが、MUFGはこの点をより明確にするべきです。

■石炭火力発電からのフェーズアウト目標

MUFGは昨年度、2040年度に石炭火力発電向けプロジェクトファイナンス残高をゼロにする削減目標を掲げましたが、今後、「事業に占める石炭火力発電の比率が高いお客さま向けコーポレート与信の残高目標を開示する方針」を明らかにしました。

プロジェクトファイナンスのみならず、コーポレートファイナンスに踏み込む削減目標の開示方針を明らかにしたことは前進ですが、1.5度目標達成のために、2030年にOECD諸国で、2040年に世界全体で石炭火力発電所の全廃が必要とされる中で、MUFGが石炭火力発電の全廃にコミットしなかったことは科学に反するだけでなく、COP26議長国によって表明された要請とも反します。

■石油・ガスセクター、森林関連セクターは進展なし

先月のポリシーフレームワークの改定時と同様に、本発表でも炭素集約的な石油・ガスセクターの拡大および森林・泥炭地破壊を止める包括的なコミットメントが示されませんでした。

パリ協定の目標に整合するには、これらのセクターの新規開発・拡張および自然生態系の劣化を加速する余地はありません。MUFGが、化石燃料への資金提供者として世界第6位の銀行であり、森林破壊を伴う産品への世界最大の資金提供者に数えられることに鑑みれば、最近のコミットメントをもってしても、投融資ポートフォリオからの過大な炭素集約度を管理することができているとは言えません。

■株主からのコメント

・平田仁子氏(気候ネットワークの国際ディレクター)

「2050年ネットゼロのゴールを明確にし、国際的な連盟に参加したことは、大きな一歩です。しかし、そこに向けて、投融資を通じた石炭火力からの排出削減やコーポレートファイナンスの脱炭素化を短中期にいかに着実に実現するのかの具体的な指標と目標は定まっていません。パリ協定の整合性を図るためにはさらなる方針強化とその加速が必要です」

・横山隆美氏(国際環境NGO 350.org Japan代表)

「MUFGが2050年までに投融資ポートフォリオの温室効果ガス(GHG)排出量のネットゼロを宣言したことは邦銀初の試みであり、一定の前進です。しかし、1.5度目標との整合性に必要な短・中期目標を設定しなかったことは大きな懸念です。気候危機の解決に寄与するためには、新規の化石燃料への投融資を直ちに止め、石炭火力を筆頭に科学の要請に沿った化石燃料の包括的なフェーズアウト戦略を早急に構築すべきです」

・川上豊幸氏(レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表)

「MUFGの『ネットゼロ宣言』は、自社が多大な二酸化炭素の排出源であると認識しているという点で重要です。しかしネットゼロの約束は、化石燃料の拡大と森林破壊への資金提供をすぐに停止しなければ意味がなく、問題の多いカーボンオフセットへの依存も容認できません。また、MUFGの方針は炭素集約型産業への重要な資金提供銀行となっているインドネシアの子会社には適用されていない点も大きな懸念です」

・福澤恵氏(マーケット・フォース(Market Forces)エネルギーキャンペーン担当)

「MUFGは『カーボンニュートラル宣言』によって気候変動へ真剣に取り組んでいることを投資家向けにアピールしたつもりかも知れませんが、十分なアピールになっていません。改定されたポリシーを持ってしても化石燃料や石炭火力発電事業者へ投融資を継続できます。MUFGは深刻さと緊急性を増す気候危機問題の表面を取り繕っているに過ぎず、解決にはほとんど貢献しません」

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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