米:控訴でモンサント敗訴 賠償額は27億円

5月14日、米カリフォルニア連邦控訴裁判所で、農薬大手モンサント(現バイエル)の敗訴が確定した。同社の除草剤「ラウンドアップ」でガンになったと訴えていたエドウィン・ハードマン氏は、2019年3月に地裁で勝訴。その後バイエルが控訴していた。今回も勝ったが、賠償額は一審判決の8300万ドル(91億円)から2500万ドル(27億円)に大幅に減額された。バイエルは最高裁に上訴する予定。(パリ在住編集委員=羽生のり子)

独化学大手バイエルの除草剤「ラウンドアップ」

70代前半のハードマン氏は、カリフォルニア州に所有する広大な土地で25年間ラウンドアップを使用し続けた。そのせいで悪性リンパ腫の一種である非ホジキンリンパ腫を発症したとして、2016年2月に連邦地方裁判所に訴えた。2019年に勝訴したが、バイエルは控訴した。今回、連邦控訴裁判所はバイエルの控訴を棄却し、地裁の判決を認めた。

二審で賠償額が激減したのは、被告に「悪意性が高い」とみなされる場合に課される懲罰的損害賠償額が極端に高いと判断されたからだ。補填的賠償金と懲罰的損害賠償金の比率について、憲法にもとづいた最高裁判所の基準が判断基準となった。一審判決の賠償金8300万ドルの中身は、補填的賠償金が530万ドル(5億8000万円)、懲罰的損害賠償金が7500万ドル(83億円)だった。

ハードマン氏の前には、2016年1月にモンサントを訴えたドウェイン・ジョンソン氏の例がある。ジョンソン氏の仕事は学校のグラウンド整備だった。2年間ラウンドアップとその業務用「レンジャープロ」のジェネリックを使い、ハードマン氏と同じ病いに冒された。

2018年8月にジョンソン氏が勝訴し、バイエルは2億8900万ドル(316億円)の賠償金を言い渡された。内訳は補填的賠償金が390万ドル(4億3000万円)、懲罰的損害賠償金が2億5000万ドル(273億6000万円)だった。この時もバイエルは上訴した。控訴裁判所は2020年7月にモンサントの過ちを認める判決を出したが、賠償金総額が2050万ドル(22億4000万円)に減額された。

バイエルは2021年3月、最高裁判所に上訴しないと発表した。これをもってジョンソン氏の裁判は完結した。しかしこの時バイエルは、ジョンソン氏のケースとハードマン氏のケースを比較し、後者の方が最高裁に上訴するのに有利と判断していた。

ラウンドアップの主成分グリホサートについて、米国環境庁(E P A)は「人体に影響なし」といしている。しかし、健康被害が出たとして米国では2020年7月の時点で手続き未完了分も含め、12万5000件の訴訟が起きていた。

除草剤ラウンドアップは「安全な農薬」として日本でも販売されている。

hanyu

羽生 のり子(在パリ編集委員)

1991年から在仏。早稲田大学第一文学部仏文卒。立教大学文学研究科博士課程前期終了。パリ第13大学植物療法大学免状。翻訳業を経て2000年頃から記者業を開始。専門分野は環境問題、エコロジー、食、農業、美術、文化。日本農業新聞元パリ特約通信員、聴こえの雑誌「オーディオインフォ」日本版元編集長。ドイツ発祥のルナヨガ®インストラクター兼教師養成コース担当。共著に「新型コロナ 19氏の意見」(農文協)。執筆記事一覧

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キーワード: #オーガニック#農業

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