夭逝した英選手がゲームで蘇る、収益は寄付へ

15歳で夭逝した若手サッカー選手が「FIFA21」に登場■

亡きストライカー、カイヤン・プリンス選手はゲームの中で輝き続ける(FIFA 21  Photo: Business Wire)

2006年に15歳で夭逝した英国の若手サッカー選手が15年後の今、30歳の姿でゲーム上によみがえった。天才的なストライカーとして将来のイングランド代表を嘱望されていたカイヤン・プリンス選手だ。事件に巻き込まれて亡くなった彼が、人気サッカービデオゲーム「FIFA21」に登場している。仕掛けたのはカイヤン選手の父親が創設した「カイヤン・プリンス財団」。様々な学生への支援のほか、恵まれない子どもたちを救うプログラムを提供している団体だ。(寺町 幸枝)

追悼の意を込め「カイヤン・プリンス財団」を設立

カイヤン・プリンス選手は2006年に、通っていた学校の校門前で起きた喧嘩の仲裁に入り、ナイフで胸を刺されて亡くなった。残された父親のマーク・プリンス博士は、息子を奪われたことへの怒りと復讐という気持ちと折り合いをつけながら、亡き息子の追悼の意を込め、「カイヤン・プリンス財団」(KPF)を2008年に設立したという。

財団では、主にボクシングのトレーニングメソッドを使った身体的トレーニングを基礎に、コーチングにより「自己肯定感」を高めるメンタルトレーニングを組み合わせた「モチベーショナル・トレーニング」を提供している。財団の創設者であるプリンス博士も前向きに人生を生きるためのメッセージを伝える講演会を行っている。

プリンス博士はボクサーとしてのチャンピオン経験を持つが、若い頃にはアルコールやドラッグ依存症に悩まされていた。息子を子ども同士の抗争に巻き込まれて亡くしたことで、改めて青少年期の教育や人生のトラブルを乗り越えるためのスキルを、子どもたちが身につけることの重要性を痛感したという。

問題を抱える子どもたちにメッセージを

しかし、こうした活動はプリンス博士が本当にメッセージを届けたいと思っている子どもたちには、伝えきれていなかった。今回、人気サッカーゲーム「FIFA21」に、大人の姿になったカイヤン選手を登場させたのには、大きな理由があるという。

「子どもたちがもっと気軽に支援を得られるようにしたいのです。多くの問題を抱える子どもたちは、社会福祉課などには行きたがりません。ホットラインに電話をしようともしません。でもゲームはするのです。ですから私はゲームの中に息子を登場させることにしました」。プリンス博士は米経済誌「FastCompany」にこう語っている。

今回、「FIFA21」を制作しているEA SportsがデジタルアーティストやVFXの専門家と協力し、カイヤン選手の15歳の画像とプリンス博士の30歳頃の画像を掛け合わせ、いま彼が生きていればおそらくこんな風貌に違いないという姿を、CGで忠実に再現した。

ゲームではカイヤン選手は15歳当時、ユースチームに所属していたプロサッカーチーム「クイーンズ・レンジャース・パーク(QPR)」のメンバーとして登録、ゲームのプレイヤーは彼をゲームに登場させることができる。また、ゲーム内からはカイヤン・プリンス財団の連絡先が表示される仕組みだ。

「Long Live the Prince」(プリンスよ、永遠に)

2019年にはファン投票の結果、QPRのホームスタジアムであるロフタス・ロードは、「カイヤン・プリンス・ファウンデーションスタジアム」へ名称変更されている。

イギリスのサッカー界にいまだに多くのファンを持つ亡きカイヤン選手。これからもFIFA21というゲームの中で、たくさんの子どもたちを魅了するアスリートとして活躍するだろう。彼の存在を知ることで、生きにくいと感じている子どもたちが、自ら問題解決に向かうきっかけを作れるかもしれない。

teramachi

寺町 幸枝(在外ジャーナリスト協会理事)

ファッション誌のライターとしてキャリアをスタートし、米国在住10年の間に、funtrap名義でファッションビジネスを展開。同時にビジネスやサステナブルブランドなどの取材を重ね、現在は東京を拠点に、ビジネスとカルチャー全般の取材執筆活動を行う。出稿先は、Yahoo!ニュース、オルタナ 、47ニュース、SUUMO Journal他。共同通信特約記者。在外ジャーナリスト協会(Global Press)理事。執筆記事一覧

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