ネット上の児童虐待に迫った映画、世界で話題に

チェコのドキュメンタリー映画「SNS 少女たちの10日間」(R15指定)が世界で話題になっている。同作は、18歳以上の女優3人が12歳に扮し、SNS上で何が起きるのか、実態に迫った実験的映画だ。10日間で2458人の成人男性から連絡があったが、そのほとんどが性的目的。デジタル社会を生きる子どもたちが、どれほどの危険にさらされているのか。(オルタナ副編集長=吉田広子)

「SNS 少女たちの10日間」(監督:バーラ・ハルポヴァー、ヴィート・クルサーク、配給:ハーク)

同作を製作するきっかけになったのは、チェコで行われた子どものネット利用に関する実態調査だったという。その調査によると、約5割の子どもたちが、SNSを通じて知らない大人と連絡を取ったことがあり、約4割が性的な画像を送られた経験があった。

ヴィート・クルサーク監督は「こうしたネット上の性的虐待の問題を社会的な議論に発展させたいという思いから、この映画を企画した」と語っている。

「連絡してきた男性のほとんどは小児性愛者ではない」

この映画がユニークなのは、その実験的な手法だ。まず、企画の意図を説明したうえで、出演者のオーディションを行い、3人の女優が決定した。彼女たちは架空の名前で、12歳女子の設定でSNSアカウントを登録。あえて出会い系のアプリではなく、日常的に利用されているフェイスブックとスカイプを使った。

巨大な撮影スタジオには、3人それぞれの子ども部屋をセット。監督やスタッフ以外にも、精神科医や社会学者、弁護士、警備員らが待機し、24時間体制で10日間の撮影を実行した。

アカウントを設定し、写真を載せると、すぐに16人の男性から連絡が入る。10日間で、コンタクトしてきた人数は2458人に上った。

そのほとんどが性的目的で、12歳であることを強調しているにもかかわらず、性的な画像を送ってきたり、服を脱ぐように指示したり、金銭と引き換えに裸の写真を送るように命じたり、中には脅迫してきたりすることもあった。こうした行為は明らかに、性犯罪、児童虐待にあたる。

この映画をきっかけに、チェコの警察が動き、実際に逮捕された登場人物もいるという。

専門家は映画のなかで、「コンタクトを取ってきた男性は、小児性愛者の特徴に合致しない」と分析している。つまり、小児性愛というよりも、弱く、支配しやすい子どもたちを対象にした性犯罪なのだ。

コンタクトしてきた子どもキャンプを運営する男性を突撃すると、「育った環境が悪い、子どもや保護者が悪い」と主張していた。

だが、10代特有の好奇心を考えれば、大人の目をかいくぐることはそう難しくはないし、自分に金銭的な価値があると分かれば、お金欲しさやちょっとした出来心で足を踏み入れてしまう心情も理解できる。

学校や家庭内でうまくいっていなければ、だれかに助けてほしい、認めてほしいという思いから、外とのつながりや居場所を求めてしまうこともあるだろう。

その結果、トラブルになってしまっても、性的なことは家族には相談しにくい。

ある若い男性の登場人物が「子どものころ、SNSで同じように、性的な要求をされたことがある」と語っていた。映画のなかでは描かれなかったものの、危険にさらされているのは、女子だけではなく、男子も同じだ。

だからこそ、SNSサービス提供者が規制すること、こうした行為は犯罪であるという認識を広めること、相談しやすい受け皿をつくることが必要だ。

「SNS 少女たちの10日間」は、ヒューマントラストシネマ渋谷(東京・渋谷)やシネ・リーブル梅田(大阪市)など、4月下旬から全国で順次公開されている。

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #ビジネスと人権

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