野口健さんが語る「世界のA面とB面」

<Sayegusa Experience Talk> No.4 野口健さん

いまSAYEGUSA は、子どもたちが様々な感動や気づきに出会える環境を創造するブランドとして生まれ変わろうとしています。 SAYEGUSA が提供するホンモノの体験を通じて 子どもたちの感性や創造力を、もっと大きく、もっと力強く育ててあげたい。彼らの無限の可能性を引き出し、その未来をかたちづくるホンモノの体験を丁寧にひとつひとつ差し出せるような 夢いっぱいの”ワンダーランド(プラットフォーム)”を目指したいと考えています。 新しいSAYEGUSAをお披露目するまでの間、対談コンテンツ「Sayegusa Experience Talk」を配信いたします。大空に飛び立つ綿毛を見守るタンポポのように三枝亮とゲストが、夢に向かって飛び立っていく子どもたちにエールを送ります。

Photo : Yoshihiro Miyagawa

アルピニスト・野口健さんが語る
子どもたちに気づいて欲しい ”世界のA面とB面” とは

第4回目は、アルピニストの野口健さんをお迎えしました。

野口さんは、16歳にして「世界7大陸最高峰登頂」という目標を、1999年、25歳の時に当時最年少記録で達成。アルピニストとして登山に情熱を注ぎ続ける一方で、遭難で亡くなったシェルパ(ネパールの少数民族。ヒマラヤの登山支援を行う人を指す)の遺族のためのシェルパ基金や、ネパールの小学校建設プロジェクト、ヒマラヤにランドセルを届けるプロジェクト、エベレストや富士山の清掃活動などさまざまな活動を精力的に行っていらっしゃいます。その活動の原点は何か。また、ヒマラヤにチャレンジしたいというお嬢様をもつ父親としての思いなどもお聞きしました。

野口健(Ken Noguchi)

アルピニスト。1973年アメリカ・ボストン生まれ。亜細亜大学国際関係学部卒業。1999年、エベレストの登頂に成功し7大陸最高峰の世界最年少登頂記録(当時)を25歳で樹立。富士山清掃活動をはじめ、シェルパ基金設立、被災地支援など、環境活動、慈善活動を多く行う。著書に『確かに生きる』(集英社)、『あきらめないこと、それが冒険だ』(学研プラス)など。 http://www.noguchi-ken.com

三枝(以下S): 野口さんは、アルピニストとしてご活躍の一方で、さまざまな環境保護や社会支援の活動をされています。どういうプロセスや気づきがあって、そこに至ったのでしょうか?

野口さん(以下N):いろいろな方に、登山家なのにどうしてそんなにいろいろな活動をするのかとよく聞かれますね。自分でも活動の幅が広がりすぎて、何屋さんなのかわからなくなってしまっています(笑)。

僕は山屋ですから、世界中の山々に行きます。山は、僕にとっての現場です。インターネットを少し探れば、データは沢山出てきます。そうすると少し詳しくなった気になりますが、現場っていうのはもっと生生しいものです。現場の匂いやオーラというのは独特です。現場に出向いて、自分の目でみると、「あぁ、こんなことが起きているんだ」と、事実を本当の意味で知ることが出来ます。見て、知ることは、「気持ちの中で背負う」ことですから、「ひとつでいいから何か出来ないかな」と思います。その「ひとつ」から活動が始まり広がっていったんです。

例えば、山の清掃活動は、エベレストや富士山が大好きだから掃除をするとか、環境問題を意識しての活動というよりも、「くやしいなあ!」と思ったのが、始まりなんです。

97年にはじめてエベレストに行きました。美しい所だと思っていたのに、ゴミだらけだった。しかも他の国の登山家から「これは、お前たち日本人が捨てて行ったゴミだ。」「君たちは、エベレストも富士山のように汚すのか」と言われて、悔しくて。山の世界では神様のような存在の、登山家メスナーが80年代に富士山に登った時、「こんなに汚い山は見たことがない。富士山は世界で一番汚い山。」と言って話題になっていましたから。日本ではさほど注目されていませんでしたが、「富士山は世界で一番汚い山。ごみが多いから世界遺産にならない」と、ヨーロッパの登山家たちは言っていたんです。

エベレストのゴミは全てが日本隊のものではないにせよ、実際かなり多かった。それが事実。過去にやってしまったことはもう変えられない。では、今の日本隊が過去の日本隊のゴミを拾おうじゃないかと。彼らの言葉が悔しくて始めた清掃活動でした。

エベレストを清掃しているうち、これは日本人登山家のマナーの問題ではなくて、日本の社会の縮図かもしれないと思うようになったんです。それが富士山の清掃活動につながりました。僕にとって富士山はトレーニング用の山。一面が氷で覆われた冬にしか登ったことがなく、その状況に気づけなかった。

夏山に登ってみたらその通りでした。びっくりするほど人が多くて、トイレから流れ出たペーパーや排泄物も酷かった。山を降りてすぐ富士山の清掃活動をしているNPOに連絡したんです。そうして案内してもらったら、山だけではなく、樹海もひどかった。

不法に捨てられた産業・医療廃棄物の山でした。「気」が完全に枯れている。初めての視察で、1時間ほどの滞在にも関わらず、心のおくそこにヘドロが入り込んだような精神ダメージを受けました。地球を汚すということは、つまり自分の心を蝕むことなんだと身を持って体験しました。動植物が環境を破壊するわけじゃない。破壊するのは人間です。環境問題に向き合うということは、人間社会を相手にすることなんです。

S: 野口さんが現場で背負ったものひとつひとつに向き合った結果が、それぞれの活動なのですね。ゴミの問題と同様に、今警鐘が鳴らされている温暖化などの自然環境の激しい変化も、登山家としての活動の中で、身をもって感じられてきたのはないでしょうか。

N: そうですね。近年では国内でも水害が増えて温暖化を意識する人が増えてきましたが、15年前の日本の国内ではまだ環境問題に対しての危機感というのはそれほどなかったですよね。

この記事は「ギンザのサエグサ オフィシャルサイト」から転載しました。この続きはこちら

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #環境

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