起業家、「食」でまちおこし 地域に「恩送り」

日本初の社会起業に特化したビジネススクール社会起業大学。約600人輩出してきた卒業生は今、どんな活躍をしているのか。林浩喜学長が話を聞いた。第7弾は母親の地元である三島市へ移住し、地方創生のカテゴリーで八面六臂の活躍をされている川村結里子(ゆりこ)さんだ。今回はご本人によるメッセージレターも特別添付したので、ぜひ御一読頂きたい。

こもりがちだった幼少期→大学で建築の勉強→大手住宅メーカーに就職→三島に移住しカフェを経営→一旦東京に帰還→社会起業大学→三島に戻り結屋を起業→三島バルのイベントを立ち上げ→その他複数の地域団体立ち上げや活動に参画 という何ともダイナミックな人生である。社起大のモットーでもある「動けばわかる」を地で行く人だ。

カフェ経営で地域コミュニティに参画へ

現在平日は三島で、自社の事業、そして複数のコミュニティ団体の活動に参画し、週末は東京の実家へと、2拠点を行き来しながら多忙を極める川村さんは、設備業を営む躾に厳しい両親に育てられた。当時はその厳しさが理解できず、自己肯定感も持てない日々。幼少期は、親となるべく接点を持たないようにと、部屋にこもり過ごしていた。

実家が設備業であることから親のすすめもあり、大学では建築を専攻し、卒業後は住宅メーカーに勤務。インテリアや営業補助を担当した。その後、母の生家でもある古民家を改装した店舗「おにぎりカフェ丸平」を、母から任されることとなり、祖母のいる三島に移住。様々な地域コミュニティに参画しながら、カフェの経営を行っていた。

しかし途中から経営方針が合わなくなり、4年半後には経営から外れ、東京に半ば強制送還される。弱り目に祟り目、結婚の破談もあり、その後の約1年間は暗黒時代だったと笑う。しかしここで、改めて自分自身を振り返る時間を持てたことで、自分のミッションや人生の意味について熟慮することが出来、振り返ってみれば貴重な充電期間であった。

三島の古民家を改装した店舗『おにぎりカフェ丸平』の店長を務めていた

社起大で学び町おこしイベント立ち上げ

社起大に入学したのは、その暗黒時代を少し抜けた頃。社起大での事業プラン作成のプロセスでは、先生をはじめクラスメートから多くのフィードバックをもらい、社会起業家による講演、社会起業家の鞄持ち体験等々、多様なものの見方を学べる非常に価値ある時間を過ごせた。

社起大で、自分自身の想いを起点に、練り上げ書き上げた事業プランを持って、町おこしイベント「三島バル」の旗揚げへとつながってゆく。今年度で10周年を迎える同イベントは毎年4000人が参加する、静岡県下における食の一大イベントに成長している。

事前にチケット購入した観光客や地元市民が、地域の飲食店やカフェ、小売店など、地域ならではのお店を夜通しハシゴし楽しむ。それ以外にも音楽やパフォーマンスを楽しみながらそぞろ歩きするという何とも愉快なイベントだ。

ちなみに今年度は、10周年ということもあり、初夏の7月19日から25日、そして秋にも11月1日から7日と、それぞれ1週間に渡って行われる。

テイクアウト中心の『三島バル』は、7月19日~25日開催予定

地域で「恩送り」、次世代に

川村さんは、とにかく行動する人である。そして人との出会いを紡いで仕事に仕上げてゆく。そもそもの動機は、三島に移住してから出会った多くの人に、事業や地域活動を応援してもらい、学びをもらい、そして育ててもらったたくさんの「恩」である。

今はそれを地域の次世代に「恩送り」として、引き継いでゆきたいという。彼女の立ち上げたイベント「三島バル」は三島市の関係者、地域のキーマンたちと議論する中で輪郭が出来上がっていった。

行動することを大事にし、多くの人々と出会い、巻き込んで行くのだ。自らの経験からも「理性だけで人は動かない、感動が人を動かすのだ」という信念にも至っている。

コロナの影響により人口の転入超過が起きている、静岡県三島市

「地方だからこそ選べる豊かな暮らし」

コミュニティの崩壊が語られて久しい。当初は東京を中心とした都市部の課題であったが、今や地方都市も同じである。隣人と挨拶すら無い関係というのは一部を除けば全国的な傾向ではなかろうか。

彼女は、「恩送り」の想いから、次世代に地域コミュニティを継承していきたいと考えている。「家と会社以外の、第三の学びの場でありコミュニティを持つことで、日々の彩りにもっと気づくことができる」「地方だからこそ、より近い位置で地域コミュニティにも参画できる。より自分たちらしい豊かな暮らし方、働き方が選択できる」と川村さんは言う。

そのような人間関係を煩わしく思う人もいるだろうが、会社の人間関係以外にも属するコミュニティがある人は、人生をより豊かなものにできると思う。SNSは気軽に参加できるコミュニティであり距離感も担保され手っ取り早くはあるが、川村さんの志向するリアルなコミュニティのような醍醐味は得られない。

社会起業を考える皆さんへ川村さんからのメッセージレター

私の今までを振り返ってみると、強い信念や一貫性があるというよりは、むしろその逆で、行動しつづけ駆け抜ける中で、都度起こった予期しない出来事や出会いによって、今ここへの道が開けていったんじゃないかと思っています。社起大との出会いもしかりです。

起こる全てのことは何かしらの意味があり、乗り越えられないことはない。そして何かをGiveできる存在であるか。行動し変化し続けられるかどうか。事業を続けていく上で、これらはとても大切なことだと思っています。

また、起業したいと言う人に向けて、”何かを始めるときの2つのカード”の話をよくします。1つは”自分で決めていい”カード、もう1つは”やめる”カードを持っておくこと。色んなことをアドバイスしてくれる人がたくさんいますが、ほとんどがそのことをやったことがない人達です。そして言ったことに対して責任は取ってくれません。アドバイスはアドバイスとして、要るものと要らないものをちゃんと自分で決めることが大切だと思います。

そして、”やめる”カードについて。始めることよりもむしろ”やめる”決断の方が、結構苦しかったり難しかったりします。この”やめる”を決断できずに、さらに状況が悪くなってしまうことって実は結構あります。はじめる時にこそ、”やめていい”というカードをしっかり意識してスタートすることって大切だと思っています。

色々お伝えしましたが、起業すると決めたのであれば、1日も早くご自身の未来への1歩を踏み出されたら良いと思います。1度きりの人生、思いっきり楽しんでください。

川村結里子さん
社会起業大学 第3期修了
株式会社結屋 代表取締役
三島バル 実行委員長

林 浩喜
社会起業大学 学長

shakidai

ビジネススクール 社会起業大学

2010年設立。日本で最初の社会起業家育成に特化したビジネススクール。500名上の卒業生がおり日本各地の他東南アジア、アフリカ、アメリカなど世界各国で様々なソーシャルビジネスに取り組んでいる。2020年に社会起業大学株式会社を設立し、さらなる発展に向けてスタートを切った。執筆記事一覧

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