カーボンネガティブと気候ポジティブは同じか

最近、「クライメート(気候)ポジティブ」という言葉をよく耳にするようになった。これは温室効果ガスの排出量より削減量を多くすることを指す。少しややこしいが、「カーボン(炭素)ネガティブ」と「クライメート(気候)ポジティブ」は同義語だ。(オルタナ総研フェロー=室井 孝之)

「カーボンネガティブ」が、二酸化炭素排出量が「マイナス」の状態のためネガティブという単語が使われるのに対し、「クライメートポジティブ(気候ポジティブ)」では、「カーボンネガティブ」の状態が気候変動緩和にとって好ましい状態(ポジティブ)であることから、「ポジティブ」という単語が使われている。

具体的にはユニリーバが2015年に「カーボンポジティブ」を、イケアが2018年に「クライメートポジティブ」を、そして2020年にはマイクロソフトが「カーボンネガティブ」をいずれも「2030年までの達成を目指す」と公表した。

ユニリーバの「カーボンポジティブ」は、2020年までにエネルギーミックスから石炭を排除し、送電網から購入するエネルギーの全てを再生可能エネルギーに切り替える。そして2030年までに事業運営を100%再生可能エネルギーで賄う取り組みだ。

イケアの「クライメートポジティブ(気候ポジティブ)」の取り組みは、2030年までに、バリューチェーン全体から排出される温室効果ガスの絶対量(電気、加熱、冷却、燃料)を半減させ、再生可能エネルギー使用率100%を目指す。

マイクロソフトの「カーボンネガティブ」は、2030年までに直接的な排出、およびサプライチェーンとバリューチェーンに関連する排出を含めて、CO2 排出量を半分以下に削減し 2050 年までに完全に排除するというものだ。

なぜ「温室効果ガス排出量<削減量」となる状態を目指すことが重要なのだろうか。それは「地球温暖化」を止めるために他ならない。

世界気象機関(WMO)によると、2019年に世界の平均気温は、すでに産業革命前から「1.1度」上昇した。

2015年に採択されたパリ協定では、産業革命前からの世界の平均気温上昇を2℃より充分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求する目標が定められている。つまりあと「0.4℃分」しか残されていないのだ。

国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書(2014年発表)では、これからの100年間で、どれくらい平均気温が上昇するか4つのシナリオを提示して予測している。

最も気温上昇の低いシナリオ(RCP2.6シナリオ)で、おおよそ2度前後の上昇、最も気温上昇が高くなるシナリオ(RCP8.5シナリオ)で4度前後の上昇が予測されている。

温室効果ガスの排出量と削減量を同じにする「カーボンニュートラル(炭素中立)」の考え方では、もはや気温上昇を抑えられないという危機感が世界に広がっている。今後、カーボンネガティブやクライメートポジティブという言葉はさらに広がっていきそうだ。

muroi

室井 孝之 (オルタナ総研フェロー)

42年勤務したアミノ酸・食品メーカーでは、CSR・人事・労務・総務・監査・物流・広報・法人運営などに従事。CSRでは、組織浸透、DJSIなどのESG投資指標や東北復興応援を担当した。2014年、日本食品業界初のダウ・ジョーンズ・ワールド・インデックス選定時にはプロジェクト・リーダーを務めた。2017年12月から現職。オルタナ総研では、サステナビリティ全般のコンサルティングを担当。オルタナ・オンラインへの提稿にも努めている。執筆記事一覧

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キーワード: #脱炭素

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