3割の家庭が省エネ実行、カギは「ナッジ」

■環境省の大規模実証事業■

日本オラクルと住環境計画研究所(東京・千代田)は6月29日、環境省から委託した家庭での省エネ促進を目指した実証事業の結果を発表した。このプログラムは行動経済学の「ナッジ」を活用したもので、全国のエネルギー事業者5社が供給している約30万世帯で2017年から4年間に渡り検証を行ってきた。実証事業の規模としては日本初の試みだ。結果は、3割の家庭が省エネを意識した行動変容を起こし、4年間の累積CO2削減量は4万7千トンだった。(オルタナS編集長=池田 真隆)

この実証事業のポイントは「ナッジ」を活用している点にある。ナッジとは、「そっと後押しする」という意味の英単語であり、2017年にノーベル経済学賞を受賞した米シカゴ大学リチャード・セイラー教授らが公共政策への活用を提唱したことで注目を集める。意訳すると低炭素社会を目指したライフスタイルを送る「スイッチ」を探した実証事業である。

例えば、米国・カリフォルニア州でナッジを活用したこのような実験がある。ドアノブに引っ掛けるドアバーを使った実験である。環境に関心を持ってもらうため、ドアバーにメッセージを記載した。「次世代のために」や「地球環境を守ろう」では効果があまり出なかったが、「お隣さんもやっています」というメッセージだと環境を意識した取り組みを行う家庭が多いことが明らかになった。

つまり、この実験からナッジは、「近所の取り組み」と定めた。環境省の実証事業でもこのドアバー実験を参考に行った。実証事業は2017年から開始した。北海道ガス、東北電力、北陸電力、関西電力、沖縄電力の5社が供給する約30万世帯を対象に、「エネルギーレポート」を定期的に郵送した。エネルギーレポートでは電気の使用量を類似世帯と比較したり、省エネにつながるアドバイス(無料でできる取り組みと有料の2パターン)などを家庭ごとにまとめた。

レポートは2種類用意した。一つは海外で実績があるものだ。すでに、海外では家庭の省エネ促進を目的とした実証事業が行われており、そこで結果を残しているレポートの型を参考にした。もう一つは日本人に馴染みやすいように文章だけでなく、キャラクターを利用したものだ。

レポート内容は各家庭にパーソナライズされた情報が必要なため、このレポートの作成や発送作業・メール送信作業をオラクル・コーポレーションが提供する家庭顧客向けのツールで行った。

レポートの種類によって、行動変容に差はあまりでなかったが、このレポートによって省エネ行動をした家庭は3割に及んだ。平均2%の省エネ効果が確認され、4年間の累積CO2削減量は4万7千トンに達した。レポートの提供終了後も省エネ効果の持続が確認されており、将来的な累積CO2削減量は11万1千トンにまで及ぶと推計した。この数値は4万1千世帯の年間CO2排出量に相当する。

ナッジを活用した実証事業では、国内最大規模だ。環境省はこの事業で明らかになったデータを活用して、政策などに反映させていく。特に、成果として注目されたのは、レポートの提供をやめても省エネを意識する家庭が一定層いることだ。

環境省の池本忠弘・ナッジ戦略企画官は、「ナッジは持続しないとも言われるが、適切なナッジにより少なくとも1年以上にわたり効果が持続することを証明できた。これは特筆すべき点だ」と語った。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #脱炭素

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