エコなお家が横につながる

■小林光のエコめがね(7)■

新築後の21年間で、CO2ベースでは63%の削減(建て替え前比では80%以上)をした自宅・羽根木エコハウスの実践を総括的に評価し、そして、それを踏まえた次のステップを考える『エコなお家が横につながる』(海象社)を上梓した。ブックレットなので140頁と短く、どなたにでもすぐに読んでいただけるボリュームだ。

一番訴えたかったことは、家庭の省エネテクニックでは実はない。既存の配電網に再エネ電源を極力つなぎこんで、平時は近隣レベルでの再エネ比率を上げ、災害時となれば、大きなグリッドから離れて最小限のライフサポートができる電力を流せる、といったフレキシブルな低圧電力利用の仕組みづくりを目指すべきだ、ということを力説した。

脱炭素が現実の命題になった今日、住宅地での再エネ獲得余地を最大限生かすとともに、再エネを利用できないご家庭にも環境対策に参加できるようにする、との狙いからだ。

その実現のためには、PVパネル(太陽光パネル)や蓄電池をたくさん各家庭に実装する、高性能のトランスを入れる、などの技術的な取り組みが必要なことはもちろんだが、それだけでは到底十分ではない。

むしろ、様々なステークホルダーの参加、協力の仕組みこそが重要になる。この参加と協力の仕組みを、この小著では、内外各地に訪ね歩いて報告した。

地域配電エコシステムとも言うべき取り組みだが、ドイツではまさしくこのような目的で配電網を経営する実験が行われていて、その報告も収めた。国内でその理想に一番近いのはと言えば、宮古島のVPP(バーチャル・パワー・プラント/仮想発電所)の取り組みである。

ここでは、住民の方々に、一層廉価で、災害時にも停電が少なくなると期待できる電力を進んで購入していただくこととして、各家庭に置かれるPVパネルからの逆潮電力、エコキュートの消費電力、蓄電池からの出力などが、地域の会社が務めるアグリゲーターによって制御される。

さらに、送電線や配電網の所有者・管理者である沖縄電力も協力している。この配電網の電力の品質を最終的に担保するため、電力の外部からの需給を調節するほか、現場に大きな蓄電池を設けて配電網の中での品質管理も行うのである。背景には、沖縄の離島での、本島と同じ値段の電力販売は、沖電の赤字につながるので、このVPPはそれを緩和してくれる事実がある。このように、参加者皆に利益があるエコシステムが構築されている。東京や大阪、そして全国のまちで見習いたいものである。

詳しいことは、6月5日に出たばかりの『エコなお家が横につながる』(海象社ブックレット「エネルギー使いの主人公になる」シリーズの第1回)を是非ご参照いただきたい。

hikaru

小林 光(東大先端科学技術研究センター研究顧問)

1949年、東京生まれ。73年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、環境庁入庁。環境管理局長、地球環境局長、事務次官を歴任し、2011年退官。以降、慶應SFCや東大駒場、米国ノースセントラル・カレッジなどで教鞭を執る。社会人として、東大都市工学科修了、工学博士。上場企業の社外取締役やエコ賃貸施主として経営にも携わる

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