【連載】アニマルウェルフェアのリスクとチャンス(7)

EU議会は2021年6月、2027年までにケージ飼育を撤廃することを決議した。この背景には、「End the Cage Age」という市民イニシアチブがケージ飼育を終わらせるキャンペーンを成功させたことがある。このキャンペーンでは、EU内で140万人の署名を集めた。(認定NPO法人アニマルライツセンター代表理事=岡田 千尋)

このキャンペーンでは、鶏のケージ飼育だけでなく、ウズラやウサギなど畜産動物のすべてのケージ飼育、母豚の分娩ストール(妊娠ストールは禁止済み)、子牛の拘束ペンも禁止することを求めた。この案に対して、EU議会では賛成が558人、反対が37人と大差で可決した。

この議論では日本とも関係してくることがある。それは、EU内に第三国で作られたアニマルウェルフェアの低い畜産物を輸入してはならないという議論だ。米国カリフォルニア州を始めとする7州では、その地域ではケージ飼育の卵を売買してはならないという規制が進んでいる。EU議会は、輸入する畜産物についてもEUが新しく作ったケージフリー基準に準拠することを求めている。

夢の国の話だろうかと思えるほど、日本との差が開き過ぎている。日本の行政のケージ飼育についての認識は、環境省がようやく「バタリーケージがアニマルウェルフェアの観点から推奨されるものではない」という立場に立った一方で、農林水産省は「バタリーケージ飼いは、いわゆるアニマルウェルフェアの五つの自由の中では、苦痛とか傷害とか疾病からの自由にもつながる」と無理な主張を続けている。その結果、オリンピックという特別な大会であっても、ケージ飼育の卵が提供されることにつながった。

ケージを終わらせるという決定は、ファーム・トゥ・フォーク戦略の一環だ。この戦略は、公正で健康的で環境に優しい農産物を目指すというものだ。ケージ飼育のように生きている間のすべてが苦痛となるような飼育は公正とは言えない。

たとえばバタリーケージ飼育は平飼い飼育と異なり死亡率が高く、改善の余地ももはや残されていないことがわかっている。動物たちは健康ではなく、健康ではない動物を多数飼育することは、人の新たな疾病発生につながる。

効率を優先した集約的畜産は環境負荷も高い。この戦略を掲げたEUでは、ケージフリーの要望が通ることは当然の結果だと考えられる。

このように、持続可能な農業を目指し、高い目標を掲げ、そこに前例のない強い方針を打つことは、決してその国の産業にとってマイナスではない。事実、畜産技術を牽引し、実際に商売としても成功しているのは、アニマルウェルフェアが高いEUである。日本のように昔の技術にしがみついていても、あまり未来はないように思う。

アニマルライツの第1人者である哲学者ピーター・シンガーは、「仏教の概念にある全ての感覚ある生きものに対する思いやりは、キリスト教の動物に対する支配的な考えや人間だけに魂があるという考え方よりも一致している」と述べている。

私たち日本に暮らす人々は、昔はあったはずの「すべての感覚ある生き物への思いやり」を、そろそろ思い出してもいい頃ではないだろうか。