SBTi、より厳しい「1.5℃」基準に引き上げ

企業に対して科学的な知見と整合した温室効果ガス削減目標を求める国際枠組み「SBTi」は、目標設定の基準をそれまでの「2℃を十分に下回る」から「1.5℃」に引き上げる新戦略を発表した。企業には、脱炭素に向けてより厳しい基準を求めることになった。(オルタナ副編集長=吉田広子)

SBTiは、国連グローバルコンパクト(UNGC)、世界自然保護基金(WWF)、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、世界資源研究所(WRI)による協働で、2015年12月のパリ協定採択と同時に始まった。

SBTiは、「サイエンス・ベースト・ターゲット(科学に基づいた目標)・イニシアティブ」の略称。同イニシアティブは、産業革命以前から世界の気温上昇を1.5℃に抑えるために、企業に対し、パリ協定に整合し、科学的知見に基づいた温室効果ガス排出削減目標を設定するように求めている。

「2℃を十分に下回る水準」は22年7月以降、受け付けない

1.5℃基準になると排出削減量が大幅に変わる(出典:環境省「SBT概要資料」)

SBTiはこれまで企業に対し、「2℃」または「2℃を十分に下回る水準(well-below2℃=WB2)」、「1.5℃」に抑える目標をコミット(宣言)してもらい、「科学的な根拠がある目標」(SBT)として認定してきた。

SBTiはこの基準を最低でも「1.5℃」に引き上げ、「2℃を十分に下回る水準はこれ以上受け入れない」と明言した。

2021年7月14日現在、SBT認定を受けたのは801社、コミット(宣言)した企業が1602社、うち「1.5℃目標」にコミットした企業は641社に上る。

米ウォルマートやユニリーバ、ロレアルなど471社はすでに1.5℃基準でSBT認定を受けた。そのうち日本企業も富士通や丸井グループ、味の素など44社が「1.5℃目標」でSBT認定を受けている。

2022年7月15日以降に目標を提出するすべての企業と金融機関は、新しい基準に合わせる必要がある。2020年以前に目標が承認された企業は、2025年までに目標を更新しなければならない。

背景には、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)が2018年に発表した「1.5℃特別報告書」がある。この特別報告書では、1.5℃上昇した場合の影響や、「急速かつ広範な」移行の必要性が報告されている。

最新版の「IPCC第1作業部会第6次評価報告書(AR6)」は8月9日に発表される予定だ。

セルウィン・ハート・国連気候変動対策特別顧問兼事務次長補佐は、次の談話を発表した。

「パリ協定で目指す気温上昇を1.5℃に抑えるという目標を実現するには、私たちは総力を挙げて取り組む必要があります。SBTiの基準引き上げは、正しい方向への一歩であり、パリ協定に整合した信頼できる排出削減目標を設定する上で、企業に明確性を提供します」

「認定基準を引き上げることで、SBTiは企業が気候科学に整合した目標を設定し、世界中の人々が気候危機の影響を受けることを防げます。私たちは、まだ目標を設定していないすべての企業に、1.5℃目標を達成するために、明確で信頼できる計画を立て、目標を設定することを求めます」

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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