山梨県都留市、キャンプ場が繋ぐ人と街

山梨県の東部に位置する人口3万人の都留(つる)市。過疎化と高齢化による人口減に悩むこの小都市に7月、ネット環境も整備した「グランピング」施設が開業する。コロナ禍で注目された「ワーケーション」に着目し、市の遊休地を民間に貸し付けて、都内から1時間半と言う好立地を活用する。市の知名度向上と人の流入を促進するのが狙いだ。仕掛け人である地元出身の映画監督、奥秋泰男さんを中心に、官民協働で人口減少に歯止めをかける。(寺町幸枝)

山梨県都留市に開業するグランピング施設「the Forest」

■地元出身の映画監督が目をつけたワーケーション事業

7月下旬にグランドオープンするグランピング施設「the Forest(ザ・フォレスト)」は、グランピング用ドームテント型宿泊施設7棟と、WiFi設備を備えたサテライトオフィスを中心に、里山を切り拓いて作り上げた「ワイルドキャンプ場」も併設する。

都留市出身の奥秋泰男さんは生まれ故郷で何か始めたいと考え、同市の助成金を利用し、休暇を楽しみながら仕事もする「ワーケーション」事業に名乗りを上げ、都留市の有休地を借り受けてthe Forestの開設にこぎつけた。

奥秋さんは映画やCMなどの制作の傍、これまでも自然の多い都留市で、都会の子どもたちを対象に自然体験教室「フィールドミュージアム」の開催といった活動に関わってきた。

都留市の自然環境を誰よりも理解する一方で、東京とも深いつながりも持っている。「自然体験教室の経験から、アカデミックなプロジェクトを地元の都留市でやってみたいという話を市役所に持ち込んだところ、ワーケーション事業なら助成金が出ると聞き、飛びついた」と奥秋さんは話す。

グランピング施設のある山奥までの通信網は市が整備し、場内のWifi設備はthe Forestの方で準備した。 the Forestはワーケーションに対応したグランピング施設として、企業に対し、社員研修の場やチーム育成の会場として利用してもらえるようなプランを用意しているという。

■都留文科大の学生も支援に参加

都留市には都留文化大学という公立大学がある。

「都留文」と地元では親しみを込めて呼ばれるこの大学に、毎年800人ほどの学生が入学する。

この学生の存在が、市の人口の高齢化を抑制している上、男女別でも若い女性の人口を大幅に引き上げている。

同大学は「卒業生の40%が教職に就く」というように教員養成を中心とする。そんな教育現場への関心が高い学生たちが、子どももたくさん訪れる「キャンプ場」と相性が悪いわけがない。

奥秋さんと出会った都留文の学生約15名が、NPO団体「ザ・フォレスター」を立ち上げ、キャンプ場の運営を支援する活動を始めた。

テストキャンプで焚き火を囲む奥秋さん(左奥)とザ・フォレスターの学生たち

「ザ・フォレスター」の代表を務めるのは、都留分科大学教養学部3年生の玉村優人さん。「フリーマーケットの開催、体験イベントの企画、そして地域の人と大学の映像サークルなどを繋ぎ、広報用の資料調達を行う3つのグループに分かれて活動している」と話す。

ザ・フォレスターの役割は、全国から集まった同大学の学生と、都留市の住民、そして市外からやってくる観光客の3点を繋ぐことだ。

今年4月に開いた「テストキャンプ」では、市内や都内から訪れた小学生に、キャンプ慣れしたザ・フォレスターのメンバーが、竹を使った弓矢の作り方を教えたり、焚き火の起こし方を指導したりするなど、「森の中で遊ぶ感覚」で子どもたちを見守った。

手製弓矢を使って森の中で遊ぶ小学生

都留市は富士山の周辺地域ということもあり、水や空気の綺麗さでは、河口湖や山中湖を抱える富士吉田市などとそん色ない。都会の子どもたちと自然体験を共有したいというフィールドミュージアム的要素も、今後は企画に取り入れたいと奥秋さんは話す。

■都留市がかける大きな期待

the Forestには都留市も大いに期待を寄せている。

今回初めて民間業者に有休地を貸与し、地代を得るという手法を導入した。これまで温浴施設の「芭蕉 月待ちの湯」をはじめ、市が企画した事業は市が指定管理業者を雇い、事業を進めた。

そのため、事業収入は入るものの、民間業者への運営委託費も生じるため、市の収入は安定しなかった。一方、今回の事業は完全に民間主導で、「地代回収」することで、市は安定した収入を得る仕組みとなった。

さらに、これまでは4年たてば市から出て行ってしまう都留文科大学の学生に対して、「都留市に残るための『職場』として、the Forestには成長してほしい」と、都留市役所の総務部企画課副主査である小林克也さんは話す。

とはいえ、小さなグランピング施設だけで都留市の過疎化に歯止めをかけられるかは疑問も伴う。

そのことは、運営している奥秋さんも、そして支援している都留市役所もよくわかっているに違いない。

「観光地でないからこそ、伝えられる魅力があるはずだ」と話す奥秋さんらは、その魅力を伝えようとクラウドファンディングも立ち上げた。

市と民間と学生が一体となってどんなムーブメントが起こるのか、都留市の動きを見守りたい。

teramachi

寺町 幸枝(在外ジャーナリスト協会理事)

ファッション誌のライターとしてキャリアをスタートし、米国在住10年の間に、funtrap名義でファッションビジネスを展開。同時にビジネスやサステナブルブランドなどの取材を重ね、現在は東京を拠点に、ビジネスとカルチャー全般の取材執筆活動を行う。出稿先は、Yahoo!ニュース、オルタナ 、47ニュース、SUUMO Journal他。共同通信特約記者。在外ジャーナリスト協会(Global Press)理事。執筆記事一覧

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