IOCが世界のメディアに求めた「男女平等」とは

東京2020オリンピックの開会式(7月23日)で、男女ペアで旗手を務めたことが話題になった。IOC(国際オリンピック委員会)は報道関係者に対し、ジェンダー(※1)平等や公平でインクルーシブな描写をするためのガイドラインを配布しているが、実際の報道は配慮されているのだろうか。オリンピック報道を見る際の参考になるように、ガイドラインからいくつかポイントを紹介する。(オルタナ副編集長=吉田広子)

※1ジェンダー: 社会的に作られる役割、行動、活動や属性のことで、ある社会において男性・女性にそれぞれ相応しいと考えられていること(UN Women)

東京2020オリンピックの聖火台(Tokyo2020提供)

その報道はジェンダーバイアスを助長していないか

「スポーツは、ジェンダー平等を推進し、女性や少女のエンパワーメントを図るための、最も強力なプラットフォームの一つであり、スポーツ報道は、ジェンダー規範やステレオタイプ(固定観念)の形成に大きな影響力を持っています。(中略)編集コンテンツを作るときは、ジェンダーの表象に慎重に注意を払いながら、コンテンツの傾向、スタイル、言葉、フレーミング、画像を考慮する必要があります」(出典:「スポーツにおけるジェンダー平等、公平でインクルーシブな描写のための表象ガイドライン」)

IOCは「(報道は)表象全体に関する標準、いわば世界標準をつくる」とし、「コンテンツやコミュニケーションがよりインクルーシブ(排除される人がいない状態)で、バランスが取れた、世界の実像に近いものにするため」、メディア向けにガイドラインを配布している。

ガイドラインからいくつかポイントを挙げた。一連のオリンピック報道を見る際の参考にしてほしい。

1.全体の4%、女性スポーツの報道の少なさ

ガイドラインでは、「スポーツメディアにおいて、女性に関するコンテンツは4%である(ユネスコ2018)」とし、「露出の大部分は男性のスポーツに光を当てたもの」と指摘している。さらに、ボクシングの男女や体操競技の男女など、「女らしさ/男らしさにあてはまると見なされる競技の方が、より多く報道される傾向にある」としている。

ICOは、オリンピック期間だけでなく、年間を通じて、女性と男性の競技を同等に扱い、報道時間のバランスを取るように求めている。

2.女性アスリートの容姿へのフォーカス

IOCは「スポーツ報道では、スポーツウーマンの『競技場外』の特徴(容姿、ユニフォームや私生活)に過剰な焦点が当てられ、彼女たちの競技精神、スポーツパフォーマンスや能力よりも容姿が重視される場合が多々ある」と指摘する。

また、女性のスポーツには「女子サッカー」などの修飾が付けられるが、男性のスポーツにはそれがなく、「女性のスポーツに特有の『ジェンダーのマーキング』は、スポーツの標準が男性であることを暗に示している(ケンブリッジ大学出版2016)」としている。

加えて、女性アスリートの活躍の要因として、コーチや身近な関係者(トレーナーや家族、教師など)のおかげであると報道されることが、男性よりも多いとし、こうした表現は避けることを呼び掛けている。

3.ジェンダー・フォーカス・ファースト

ガイドラインでは「スポーツウーマンは、多くの場合、まず性別またはジェンダーの役割(妻、母親、女性らしさ)によって定義され、次にアスリートとして定義されるが、スポーツマン(男性アスリート)に関してはそうではない」とする。

IOCは、「ジェンダーやセクシュアリティに関係なく、また外見にも関係なく、アスリートのスキルと実績に主眼が置かれるべき」とし、本人が自ら進んで情報提供をしない限り、夫・パートナー・子どもに関する質問をするのは避けるように呼びかけている。

ジェンダー平等に配慮した言い換えの事例

IOCは、「ジェンダーバイアス(※2)を取り除き、よりインクルーシブな表現を取り入れる」方法として次の言い換えを提案している。

※2ジェンダーバイアス:認識された性別に基づいて、個人またはグループに影響を与えるような偏見に満ちた行動または考え。正当で/無意識的、または明示的/意識的いずれの場合も、ジェンダーバイアスのかかった言葉は、一方の性別を他方よりも優遇し、不平等および不公平な扱いをもたらす。 これはジェンダー差別の一形態である(EIGE2018)

イランの女性スキー選手が平昌への道を切り開く
→ イランのスキー選手が平昌への道を切り開く

「彼女たちはショッピングモールの真ん中に立っている方がいいかもしれません」
→ 「体操選手たちは圧倒的な強さで勝利し、その勝利を喜んでいます」

彼女は去年の夏に北京で、出産後の体を披露しました
→ 北京の世界選手権で、金メダリストのエニスヒル選手は、その(彼女の)身体の可能性を見せつけました

セクシーなバレーボールスターが誕生日を祝う
→ ケニアのバレーボールスターが人生の新たな節目を祝う

「ああ、(ひな鳥のように)少女たちが泣いていますね」
→ 「メダリストたちにたくさんの感情が溢れています」

彼女はレースに勝つために、まるで男性/野獣のように泳ぎました。
→ 彼女はレースに勝つために、相当の覚悟で泳ぎました。

(避けるべき用語)

「セクシー」「女の子っぽい」「男らしい」「イケメン」「美少女」「美しすぎる」「美女アスリート」「ママさんアスリート」

このほか、女性アスリートを「ちゃん」付けで呼んだり、愛称で呼んだりする場合に、アスリートの価値を矮小化・過小評価することがないよう、ジェンダー平等の確保に注意することを呼び掛けている。

画像・映像で必要な配慮とは

IOCは「ストーリーは、静止画か動画かにかかわらず、その画像を通して語られます。 画像は、スポーツ、アスリート、ファンの多様性を反映しているべきで、質と量の両方で平等とバランスを考慮に入れる必要があります」

(避けるべきビジュアル)

・受動的で、セクシーなイメージを避ける。それらの表現は、ジェンダーのステレオタイプを再生産させる。

・不必要に容姿に注目しない。容姿(メイク、髪、ネイル)、ユニフォームや身体の一部(股間のショット、胸の谷間、お尻)などアスリートのパフォーマンスに特に関係がないものに画像の焦点をあてないようにする。「性的魅力ではなく、スポーツの魅力」を描くようにする。

・同じアスリートだけに過剰に光をあてない。チームスポーツにおいて、スポーツそのものやパフォーマンスとは無関係に、同じアスリートだけ、あるいは特定のアスリートを過剰に映し出すのを避ける。

当然、女性へのジェンダーバイアスだけではなく、男性のジェンダーバイアスも配慮されるべきだ。以上の観点をもとに、オリンピックの報道が多様性を尊重し、平等性を保っているものかどうか、注視したい。

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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