富士通ゼネラル、30年にカーボンゼロへ

■富士通ゼネラル 斎藤悦郎社長インタビュー■

富士通ゼネラルは「2030年度までにカーボンニュートラル」と意欲的な脱炭素目標を掲げた。事業活動で使用する電力を、再生可能エネルギーへ切り替えや、温室効果ガスの排出が少ないヒートポンプ機器の普及を進める。同社のCSO(最高サステナビリティ責任者)でもある斎藤悦郎社長に聞いた。(聞き手・オルタナS編集長=池田 真隆)

富士通ゼネラルの斎藤社長

――2030年度までにカーボンニュートラル(スコープ1,2/生産や自家使用するエネルギー)を達成するという目標は、富士通グループで最も意欲的な目標ですね。

2030年度にカーボンニュートラルの達成は、確かに意欲的だという声を頂戴しますが、私自身の考えは少し異なります。

弊社では空調機が売上高2655億円(2020年度)の9割を占めます。省エネ・冷媒性能などの環境規制が欧州を中心に世界で進んでいて、製品の競争力を上げるためには環境対応は不可欠です。

次世代を担う子どもたち、さらにその先の将来世代に元気な暮らしを提供する責任があります。希望に満ちた未来を奪ってはいけない。そのために、カーボンニュートラルの早期達成は必然です。

今年3月にはサステナブル経営の基本方針を新たに策定して、2025年度にはスコープ1と2で使う電力を全て再生可能エネルギーに切り替える目標を立てていましたが、これを2022年度に前倒しで達成する予定です。個人的には2030年でのカーボンニュートラルは遅いと感じており、全体計画の前倒しでの達成を目指すつもりです。

――スコープ1と2に占める温室効果ガスの排出量の割合はどの程度でしょうか。

2019年度のスコープ1と2の温室効果ガスの排出量は約6万トンですが、空調機ビジネスでは排出量の9割以上をスコープ3が占めるので、この分野での環境対応こそ力を入れていきたいのです。

スコープ3の対応として、2035年までにサプライヤーの生産拠点や輸送に関わるエネルギーを再エネ化したり、化石燃料使用機器をEV化したりすることで、2018年度比で温室効果ガスの排出量を30%削減することを目指しています。今はまだ、サプライヤーの工場に再エネへの切り替えをお願いしている段階です。各お取引先様で社会的な動向を踏まえて対応を進められており、当社としてもその対応、働きかけを今後一層強化していきます。

さらに、当社としては設計段階で省エネ性能の高い空調機の開発を進め、全世界で販売した製品の使用時の温室効果ガスの排出量を2030年度までに2013年度比で30%削減することも目標に置いています。

実はこの製品使用時の削減目標の方が、「スコープ1と2で2030年度までにカーボンニュートラルを達成する」という目標より意欲的であると私自身は考えています。当社にとって重要な環境目標なのです。

――製品使用時の削減はどのようにして取り組みますか。

日本の空調機器の省エネ性能は世界トップクラスです。これ以上高めるのは至難の業ですが、一つ目の方法は、設計段階における対応です。冷媒転換など新技術の開発を進めることで、省エネ性能を最大限に伸ばした製品を開発します。二つ目は、非インバーターエアコンから高効率インバーターエアコンへの切り替えです。

当社売上高の約7割が海外です。中でも、今後の需要が見込めるインドや中東などのアジア圏では非効率な非インバーター空調機をいまだに多く使っています。

高効率インバーターエアコンへの切り替えを促進すると同時に、AI/IoTの活用で、遠隔操作や故障診断などによるサービスメンテナンスにおける温暖化ガス排出削減にも努めていきます。

最後に再生可能エネルギーを動力にした空調機器の開発です。例えば自然エネルギーや排熱を動力にした製品など、日々研究開発に取り組んでいます。

懸念されるのは、日本の電力の再生可能エネルギーへの転換の遅れです。国のエネルギー基本計画では30年度に再生可能エネルギー比率は36~38%としていますが、日本の電力構造がどう進むのか。電力の再生可能エネルギー化が想定していた目標以下であったとしても、カーボンオフセットを利用して当社の目標達成を目指すことに決めています。

脱炭素を実現するためには複合的な取り組みが必要なので、あらゆる方法を検討していきます。

――環境負荷の低減と経済成長を両立させる「デカップリング」の取り組みとして「アカスリ運動」を全社で呼び掛けています。効果はいかがでしょうか。

アカスリ運動は、設計や物流段階における環境負荷の低減や、生産性の向上、本社部門でのムダの削減を目指した全社運動です。工場やオフィスでの無駄を徹底的に削減し、省エネ化や温室効果ガス排出量削減など、環境負荷とコストを減らすことを目的に2016年に始めました。

例えば、工場ではフロン漏洩防止、物流段階ではモーダルシフトや共同配送、オフィスでは承認手続き用紙の電子化に立ち会議の推奨などを行っています。今年度からはこのフレームを活かし、SDGs(持続可能な開発目標)に関連する取り組みも全世界の社員から募集しています。

アカスリ運動の効果としては、これまでに1万4500トンの温室効果ガスの削減につなげました。費用に換算すると33億円の支出削減に相当します。

――3月に発表したサステナブル経営の新方針では脱炭素に貢献した製品を認定する「サステナブル・プロダクト制度(サスプロ)」を始めました。

温室効果ガスの排出量削減や社会課題解決に大きく貢献する製品やサービスを認定する制度を当社独自の取り組みとして始めました。中でもより貢献度の高いものには「サスプロ・ゴールド」を付与します。今年度のサスプロ対象売上高は300億円程度ですが、今後の10年でサスプロを促進するため、設備投資や研究開発への投資によって売上を拡大し、2030年には全体の売上構成高比で30%以上を目指しています。

サスプロの一例として、化石燃料使用暖房機器と比較し、運転時のCO₂排出量の抑制が期待できる寒冷地向けエアコンがあります。さらに日本だけでなく、海外においても暖房機器は化石燃料が主流です。このような化石燃料機器からヒートポンプ機器への置き換えを促進して「世界の暖房文化を変える」ことは私どもの使命であると考えています。

特にフランスやアメリカにおいては、メーカーと包括的業務提携を結び、ビジネスモデルの転換をサポートしています。ヒートポンプ技術など、当社のリソースを提供しながら事業の脱炭素化を共に進めています。

社内でサステナビリティ活動を進めるには現場からの共感も欠かせません。

そこで、社員参加型の企画として、社会課題の解決につながる新規事業のアイデアを全社から募集する取り組みも行っています。7月には新規事業創出プログラムの最終選考会を開催し、いくつかのアイデアについて、事業化の検討を開始しました。

また、8月から新しいアイデアの募集も始めています。全世界の社員がモチベーションを維持し、楽しみながら社会と事業に貢献する。このようなサステナブル経営の取り組みによって、持続可能な社会の実現へ貢献できることと確信しています。

斎藤 悦郎:
株式会社富士通ゼネラル社長
1954年新潟県生まれ。明治大学政治経済学部卒業後、1977年株式会社富士通ゼネラル入社。2008年VRF・ATW販売推進統括部長などを経て、2009年経営執行役、2011年経営執行役常務、2012年経営執行役常務 海外営業本部長代理。2015年6月から現職。2020年12月からはCSO (Chief Sustainability Officer)を兼務。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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