「開会式で手話通訳なし」NHKなど説明せず

東京オリンピックの開会式(7月23日)で、手話通訳が放映されなかったことについて疑問の声が投げかけられている。会場には手話通訳者がいたものの、放送用ではなく、会場用だとして、手話通訳が放送されることはなかった。NHKも自社で手話通訳者を手配することはなかった。「多様性と調和」を掲げるオリンピックで何が起きたのか。(オルタナ副編集長=吉田広子)

東京2020オリンピックの聖火台(Tokyo2020提供)

韓国と台湾では手話通訳をワイプで放送

「手話通訳がなかったため、開会式は字幕で見ていたが、映像とタイムラグがあり、何が起きているのか理解するのが難しかった。会場のスクリーンに手話通訳が映し出されたとき、なぜ手話通訳者が現場にいるのに、放送されなかったのかと驚いた。東京オリンピックは『多様性と調和』を掲げているのに、とても残念に思った」

コミュニケーションバリアの解消に取り組むNPO法人インフォメーションギャップバスター(IGB、横浜市)の伊藤芳浩理事長は、開会式を振り返る。伊藤理事長自身も生まれつきほとんど耳が聞こえない。

開会式には手話通訳者がいたが、あくまで会場にいる観客のために用意されていた。開会式の映像は、OBS(オリンピック放送機構)が制作し、日本ではそれをNHKが放送した。だがそこに手話通訳は付かなかった。一方で、韓国や台湾、カナダなどのテレビでは、手話通訳がワイプで放送されていた。

一転して閉会式ではEテレで手話通訳

8日21時に追加)閉会式の様子はNHKEテレで、ろう者による手話通訳付きで放送された
(8日21時に追加)閉会式の様子はNHKEテレで、ろう者による手話通訳付きで放送された

こうした状況を受けて、全日本ろうあ連盟(東京・新宿)やIGB、手話推進議員連盟などは、中継で手話通訳者を映すように、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会やNHK、民放連などにそれぞれ要望書を出した。

その結果、NHKは、8月8日に開かれる閉会式で、Eテレで手話通訳を入れて放送することを決めた。「パラリンピックの開閉会式についても、全編に手話をつけるよう検討している」(同社広報部)という。

だが、なぜ閉会式では手話通訳の放送ができて、開会式ではできなかったのだろうか。そもそも、3月26日の聖火リレー出発式で、手話通訳が不在だったことを指摘され、丸川珠代五輪相は「配慮に欠けていた」と釈明し、組織委員会に対して、大会本番での対応を求めていた。

「誰一人取り残さない」は実現されたのか

オルタナ編集部の取材に対して、組織委員会は、「IOCおよびNHKにお問合せいただければと思います」とメールで回答し、手話通訳を放送しなかった理由や今後の方針については答えなかった。

NHKには「なぜ開会式で手話通訳を放映しなかったのか」「なぜ閉会式の手話通訳は、総合テレビではなくEテレのみなのか」といった質問を投げたが、それに対する答えはなく、閉会式ではEテレで手話通訳を付けることと、パラリンピックの開閉会式でも検討していることを説明する文書が届いた。

IGBと手話推進議員連盟は8月7日、緊急オンライン集会「多様性と調和のオリンピックに手話通訳を!」を開催した。そのなかで、Eテレのみで放送することについてNHKが「『手話通訳で映像の一部が隠れてしまい、それを好まない視聴者もいることから総合的に判断した』」と説明していたことが分かった。

組織委員会もNHKも「誰一人取り残さない」をスローガンに掲げるSDGs(持続可能な開発目標)へのコミットを表明しているが、SDGsの見地からも一連の対応には疑問が残る。

手話通訳を巡っては、「字幕やネットニュースを見れば済むのでは」という意見もある。だが、生まれつき耳が聞こえないなど、手話を第一言語にしている人は、第二言語となる日本語を読めないことも多い。日本人にとっての英語のような感覚だ。高齢者やインターネットを使わない(使えない)人などは、ネットの情報に容易にアクセスできない。

視覚障がいやディスレクシアなど文字を読めない人も一定数いるため、伊藤理事長は「情報を伝えるには、音声、手話、文字の3つがそろっていることが重要だ」と訴える。

オンライン集会に登壇した、ろうの家族がいる藤木和子弁護士は、「『障害者権利条約』や『障害者基本法』では、言語に手話を含んでいる。手話は法的に認められている言語。障害者差別禁止法では『合理的配慮』を義務付けられている。Eテレで、ろう者の手話通訳が放送されることが喜ばしいが、総合テレビとEテレで分けることには違和感がある。『多様性』と『調和』は相反する部分もあり、難しいが、まずはどう実現できるのかを考えていくことが必要だ。次のオリンピック・パラリンピックにつなげていきたい」と語った。

(8月9日15時30分追記)
NPO法人インフォメーションギャップバスターと手話推進議員連盟は、オリンピック・パラリンピック放映の情報保障(手話通訳・字幕)のあり方についてアンケートを実施しています(回答期限8月15日)。
https://forms.gle/FGW8bmfWETEhJ5Qc6

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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