IPCC6次報告書、「海面15m上昇の可能性も」

国連機関「気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)」は8月9日、異常気象と地球温暖化の相関関係を科学的な見地から示した第6次評価報告書を発表した。温暖化対策が不十分な場合、南極の巨大氷床が溶けて、2300年までに海洋に崩落する可能性があると指摘した。こうなった場合、海面は15メートル上昇すると分析した。(オルタナS編集長=池田 真隆)

IPCC第6次評価報告書「自然科学的根拠」政策決定者向け要約(2021年8月9日発表)

IPCCとは、気候変動に関して世界中の科学者の知見を集約している国連機関だ。1990年から気候変動が及ぼす地球環境や生態系への影響を科学的に分析してきた。今回出した報告書で6回目となる。日本を含めた世界各国が2050年に向けてカーボンニュートラルに舵を切っているが、その背景にはこのIPCCの報告書がある。

2018年10月には「1.5℃特別報告書」を発表し話題となった。これまでは気候変動を解決するために産業革命前と比べて地球の平均気温の上昇を2℃以内に抑えることが重要としていたが、2℃では不十分で「1.5℃」に抑えることが不可欠と報告した。

さらに、このままの各国の対策では気候変動に関する国際アジェンダ「パリ協定」の達成が困難であることも指摘した。地球の平均気温の上昇を1.5℃に抑えるためには、2050年前後でのカーボンニュートラルが不可欠と結論づけた。

今回の第一作業部会にオブザーバーとして参加したWWFジャパンでは、このほどIPCCが発表した報告書の要旨を次の通りにまとめた。

・人間活動によって約1.1度地球の平均気温は上昇しており、熱波、激しい降水、干ばつなどに留まらず、氷河や北極圏の海氷の後退、海面上昇によるより頻繁な沿岸部の洪水や海岸浸食、海洋酸性化、熱帯低気圧の強大化などに人為的な気候変動の影響が認められる。
・50年に一度の記録的な熱波が起きる頻度は、1.5度の気温上昇では産業革命前に比べて8.6倍、2度では13.9倍、4度では39.2倍に達する。
・海面上昇は、1.5度に抑えるシナリオでも2100年には28~55センチ上昇し、最も高いシナリオでは最大1メートルに達する。
・産業革命以降、人間活動によってCO2は約2兆4000億トン排出されており、気温上昇を1.5度に抑えるためには(67%以上の確率で)、残りあと4000億トンの枠しか残っていない。
・すなわち、排出量は今後ただちに急減させてネットゼロに持っていかなければ、1.5度の気温上昇に抑えることは可能ではなくなってしまう。

オブザーバー参加したWWFジャパンの小西雅子 環境・エネルギー 専門ディレクターは、「気候危機は遠い国の話ではなく、自分たちの生活を脅かす猛暑や洪水が直接的に関係しており、このままではさらに激甚化していくことが科学によってより明示された。COP26(2021年10月31日~11月12日開催)に向け、46%削減目標を掲げた日本であるが、50%以上の高みを目指すことがより一層必要である。そしてその半減目標を確実に実施していく施策を整えて、COP26に提出してもらいたい」とコメントした。

IPCCは各国の政策決定者が科学的知見に基づいて円滑に国際交渉を進めるために、報告書の内容を約40ページ程度に要約したものも作成する。政策決定者はその要約で記された内容をもとにして気候変動に関する交渉を行っていく。

今回発表した報告書はIPCCの第一作業部会がまとめた。第一作業部会は7月26日から8月6日までオンラインで開催され、195カ国の政府代表団が参加した。温暖化を科学的に分析し、異常気象と温暖化の相関関係を科学的根拠から示した。

来年3月には第2作業部会が温暖化の影響を、4月には第3作業部会が温暖化の対策についての報告書を出す予定だ。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #脱炭素

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