ちっちゃい駐車場、ありがとう

 大きな道路に面している駐車場は意外に流行らない。車の通行量は多いのだが、スピードが出ているので止まりにくい。中央分離帯があったりして、反対車線の車が入りにくい。
 この辺りは山手通りや目黒通りから少し入っているので、徐行して駐車場を探すのにぴったりだ。固定資産税が少し安いのも助かる。
 当初は大手のコイン・パーク会社に一括して任せようかとも考えた。一番楽だから。でも、それだと安い。せいぜい駐車場1台分が月に10万円にもならないだろう。悪くはないが、もっとほしい。
 そこで自己経営方式、つまり、基本的に自分でやることにした。管理だけを委託するのだ。
 しばらくして、ある管理会社の前に真知バアの姿があった。散歩友だちのおばさんが紹介してくれたのだ。出入り業者や客層を見れば、その会社の様子はわかるものである。銀行ではよくこうした調査を行う。玄関前で財布をわざと落としてみた。取引先かなにかだろう、後ろにいた若い男が「おばあちゃん、何か落としたよ」と拾ってくれた。よし信頼できる、とその会社に運営を任せることに決めた。
 隣の大将が、ばあさんひとりじゃ大変だろうと、駐車場をアスファルトで舗装してくれるという。昔気質の棟梁で仕事が丁寧なのはいいのだが、丁寧の度が過ぎて作業がいつまでたっても終わらないのには閉口した。ただ、仕事ぶりはすばらしい。何年たってもひび一つ入っていない。照明の取り付けとペンキでラインを引くのも棟梁がやってくれた。
 面倒だったのは道路から車がスムーズに駐車できるように歩道の縁石を削る、切り下げ作業だ。役所はやることが遅いし思った以上に経費もかかった。最後に精算機とロック板を設置した。仕上げはメルカリで買った「24時間コイン・パーキング時間貸し」のノボリ。
 ここまで来るといよいよ値決めだ。日本で一番高いのは銀座で、1時間、3,600円らしいが、まさか。目黒だから、「30分、200円」くらい?と思ったが、周りの駐車場はもっと高い。思い切って「20分、200円」に設定した。1時間にすると600円。正直、ちょっと高いと感じるが、それが相場のようだ。
 運営会社の担当者は言った。「おばあちゃん、なかなかやるじゃない」。褒めたわけではない。年寄りの頑張りに心底驚いているのだ。

挿絵・井上文香
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希代 準郎

きだい・じゅんろう 作家。日常に潜む闇と、そこに展開する不安と共感の異境の世界を独自の文体で表現しているショートショートの新たな担い手。この短編小説の連載では、現代の様々な社会的課題に着目、そこにかかわる群像を通して生きる意味、生と死を考える。

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