FASHIONに「ヴィーガン」を取り入れること

多様で健康的なファッションの未来を考える(9)

食べ物を選ぶ際の一つの在り方として「ヴィーガン」を選択する人々が増えている。卵や乳製品を含む動物性食品をいっさい口にしない菜食主義のことであり、単に好みや健康上の理由に留まらず、自然環境へのインパクトを軽減する、動物からの搾取を行わないなどの目的を持って選択されることも多い。食のみならず、生活の中で一貫してその姿勢を貫く人々も増加する中、ファッションにおける「ヴィーガン」の実践についてどのように向き合っていけばよいのだろうか。(一般社団法人unisteps共同代表=鎌田 安里紗)

そもそも「ヴィーガン」「ヴィーガニズム」とは、「食物、衣類、またはその他の目的のために動物のあらゆる形態の搾取および残虐行為を可能な限り排除しようとする哲学および生き方(”Veganism is a philosophy and way of living which seeks to exclude—as far as is possible and practicable—all forms of exploitation of, and cruelty to, animals for food, clothing or any other purpose”)」のことであると、英国のThe Vegan Societyによって定義されている。日本では、食の姿勢としてメディアに取り上げられることも多いが、そもそも衣食住全てに関わるものである。

前述の通り、アニマルライツ (動物の権利)の観点からの選択ではなく、自然環境への負荷を減らすために「ヴィーガン」を選択する人々もいる。家畜の飼料(餌)を生産するために広大な土地を必要とするため森林伐採が加速すること、飼料の栽培に大量の農薬や化学肥料を使用すること、牛などの家畜がゲップで放出するメタンが地球温暖化を悪化させることなど、気候変動への影響は甚大である。

バッグや靴など、ファッション産業で使用するレザーの多くは食用肉の副産物を使用しているため、動物から頂いている命を無駄にしていないと捉えることもできる。また、きちんと手入れをすることで長く使い続けられることも、本革の魅力である。

しかしながら、食肉や革としての需要があり続ける限り、工業型畜産(効率性を重視し、画一化された家畜の飼育方法)の問題が改善されないことから、使用量を限定する必要性はあると考えられる。

その他、ワニやヘビなどの皮を使用するエキゾチックレザーやファーは、ファッション製品の生産のためだけに飼育されたり、希少種の乱獲に繋がったりすることから、規制が強化されている。

本革の代替品としては、これまで合皮がポピュラーであったが、石油由来であることから、自然環境への観点から「ヴィーガン」を選択する上で、好ましい代替品ではなかった。近年は、リンゴやパイナップル、サボテン、キノコなど植物由来の「ヴィーガンレザー」の開発が積極的に行われている。リンゴジュースをつくる際に廃棄される皮や芯を活用してつくられるレザーなど、その過程の面白さにも心が躍る。

最終的にどのような基準でものを選ぶかは、各人の価値観によるが、新たなアイディアや技術を活かした新素材に目を向けながら、まずは作りすぎない、購入したものを長く使用するなど、生産と消費のスピードを見直し、全体量を抑えていく必要があるだろう。

週に一日だけ菜食を実践する「ミートフリーマンデー」などの動きを参考に、完全に動物性素材を断つという在り方だけではなく、減らす、関わり方を考えるということは、誰もが始められる一歩である。

arisakamada

鎌田 安里紗(一般社団法人unisteps共同代表)

一般社団法人unisteps共同代表。衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響を意識する”エシカルファッション”に関する情報発信を積極的に行い、ファッションブランドとのコラボレーションでの製品企画、衣服の生産地を訪ねるスタディ・ツアーの企画などを行っている。暮らしのちいさな実験室Little Life Labを主宰。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。環境省「森里川海プロジェクト」アンバサダー。【連載】多様で健康的なファッションの未来を考える

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