失業に土地侵害、痛みのない脱炭素化は可能か

■ALTキーワード:ジャストトランジション

2015年採択のパリ協定では、今世紀後半のカーボンニュートラルが目標となった。その実現には脱炭素型社会への変革が必要となる。

しかし変革には弊害が伴いがちだ。例えば「化石燃料産業の労働者が失業する」といった問題だ。しかも問題は労働者にだけ起こるのではない。企業にとっては「既存設備の廃棄」などの問題が想定されるほか、市民にとっては「新エネ用の土地利用で権利を侵害される」などの問題も起こりうる。

この弊害をなくして、誰一人取り残すことなく脱炭素化を進める考え方を「ジャストトランジション」(公正な移行)と呼ぶ。この概念は2009年に国際労働組合総連合(ITUC)が提唱したもの。実は前述したパリ協定の前文でも「労働力の公正な移行(中略)が必要不可欠」と示されている。

こと労働者に関して言えば、失業者への再就職支援、社会保障の拡充、雇用創出などが大きな課題となる。EU(欧州連合)のように同分野への資金供給を政策に掲げた地域もある。

注意が必要なのはこの問題意識が「脱炭素化への反発」ではない点だ。あくまで「脱炭素化との両立」を志向する問題意識となっている。

morihiroshi

もり ひろし(新語ウォッチャー)

新語ウォッチャー。国語辞典の新項目執筆を中心に活動。代表的な連載に「現代用語の基礎知識」の流行観測欄(2010年版~)など。執筆記事一覧

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