「エコは楽しくておいしい」、カゴメ農場で体感

小林光のエコめがね(9)

今回は、カゴメ野菜生活ファーム(長野県富士見町)を紹介する。社長の河津佳子さんにご案内いただいて見学した。これは、滋味あふれた野菜を栽培する現場を見ながら、また、八ヶ岳の雄大な景色を見ながら、摂りたて野菜をふんだんに使ったイタリア料理をお客様に楽しんでいただく、美味しくてためになる施設である。

八ヶ岳と工場と菜園

同社は、カゴメのグループで、親会社のカゴメが全国で6カ所工場を持っているうちの野菜飲料の生産を行う長野県富士見町の工場に、トマト温室や畑を隔てて隣接している。

写真(上)は、野菜生活ファーム直営のレストランや売店から北方向を写しているが、自然の恵みが人間の健康に直結していることを直感させる、良い景観になっている。

ここで紹介する理由は、味が良いレストランがあるからではない。

そもそもこのおよそ10haの菜園は、遊休農地の再生をしたものであり、そこでは、単に環境に配慮した栽培といったことだけではなく、地域の生態系の保全にも取り組んでいる。

紹介の理由は、第一に、地域との共生の努力を評価したためである。例えば、写真(下)は、畑脇に作られたドロバチの巣のシツラエである。ドロバチは、人間には危害を加えない狩人蜂で芋虫などを捕まえる。論者の想像するところ、生きた農薬にもなるはずだ。

わざわざ作られたドロバチ類の棲み家

実はさらに別の特色があり、論者はこの点をこそ一番評価したい。それは、工場の排温水や排ガス中のCO2などを隣接するトマトの施設栽培で利用する、低環境負荷の「アグロ・インダストリー」を実現していることである。

例えば、工場で天然ガスを燃やして発生する年2300トンのCO2のうち、トマトの光合成に使える目一杯の800トンが温室に供給されて、トマトの栽培に使われている。これは、普通のトマト栽培に必要な液化CO2の量を60%削減するものになるという(100%にならないのは、工場が稼働しない日には液化CO2を使うため)。

排温水は定格41℃の温排水の形でも温室に供給され、温室暖房エネルギーの2割を賄う勘定になっている。将来的には、工場の野菜ジュース絞り滓の堆肥化したもの(年間50トン程度)を畑に使用し、資源循環を一層強める計画と言う。

カゴメグループのコーポレート・ステートメントは、「自然を、おいしく、楽しく」であって、まさにそれを具体化したのがこの地だと思った。エコは、論者の日ごろの主張のとおり、楽しく、おいしいのである。

hikaru

小林 光(東大先端科学技術研究センター研究顧問)

1949年、東京生まれ。73年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、環境庁入庁。環境管理局長、地球環境局長、事務次官を歴任し、2011年退官。以降、慶應SFCや東大駒場、米国ノースセントラル・カレッジなどで教鞭を執る。社会人として、東大都市工学科修了、工学博士。上場企業の社外取締役やエコ賃貸施主として経営にも携わる

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キーワード: #農業

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