「ベジミート」急拡大の裏に気候変動や水の問題

外食産業や冷凍食品、スーパーの肉売り場などあらゆる消費の現場でベジミート(植物肉)が増えている。モスフードサービスは、主要原材料に動物性食材を使わない「グリーンバーガー」の新製品を投入する。イトーヨーカドーも3月から、焼き肉用代替肉を発売した。背景には、消費者の健康志向だけでなく、気候変動や水の問題などSDGsの課題解決の側面もある。(オルタナ編集部・山口勉)

タレント・モデルの近藤千尋さんが一日宣伝部長として「グリーンバーガー<テリヤキ>」をプレゼン (C)Ben Yamaguchi

モスバーガーを運営するモスフードサービスは昨年3月、主要原材料に動物性食材を使用せず、さらに五葷(※)を抜いた「グリーンバーガー」(580円)を発売した。累計75万食を突破し、動物性食材を使わないプラントベースメニューの認知度アップにつながった。

※五葷(ごくん): 仏教における臭気の強い5種の野菜(ねぎ、らっきょう、ニラ、にんにく、たまねぎ)のこと

9月22日からは「グリーンバーガー」の新商品として「グリーンバーガー<テリヤキ>」を販売する。今回、人気のテリヤキバーガーをベジミートで実現した。第1弾の「グリーンバーガー」は380店舗ほどで販売し、80万食近くが売れている。

今回第2弾となる「グリーンバーガー<テリヤキ>」はモスの全国1300店で展開し、年間150万食の販売を目指す。

新商品の「グリーンバーガー<テリヤキ>」
ソースは後がけで、自分の好きな分量だけかけられる (C) Ben Yamaguchi

ベジミートの動きはこのところ急だ。バーガーキングの大豆由来の100%植物性パティ「プラントベースワッパー」やドトールの「全粒粉サンド 大豆ミート」などの人気商品も生まれた。

外食産業だけでなく、先行していた丸大食品に続いて日本ハムや伊藤ハムも「ベジミート」に参入し、食肉加工メーカー大手3社が揃い踏みした。イトーヨーカ堂が発売したのは、焼肉用代替肉「NEXTカルビ1.1」と「NEXTハラミ1.1」で、家庭用の焼肉需要も取り込む狙いだ。

■牛の畜産・消費で世界の温室効果ガスの9%占める

ベジミートが増えたのは、消費者の健康志向の側面が大きいが、それだけではない。国連食糧農業機関(FAO)の調査(2013年)によると、世界の温室効果ガス(GHG)の総排出量のうち畜産業だけで14%を占める。特に多く排出するのが牛で、畜産業のうち65%を占める。つまり世界のGHG総排出量の9.1%が「牛肉の消費」による。

東京都公立大学法人の山本良一理事長によると、「こうした事実を受け、特に英国の大学が動き始めた」という。ロンドン大学のゴールドスミス校の学食では、ビーフハンバーガーの提供は禁止された。ケンブリッジ大学も肉食を3分の1に減らしたという。

■牛肉1キロの生産のために水2万リットルが必要

牛肉の輸入は、実は、水を輸入している意味合いもある。牛の主な飼料であるトウモロコシの栽培には、大量の水が必要だからだ。「バーチャルウォーター」という考え方だ。

NGO「ハンガー・フリー・ワールド」のホームページには「牛肉1キログラムに2万リットルの水が必要」(東京大学の沖大幹教授グループの研究による)との記述(※)がある。

※参照サイト: https://www.hungerfree.net/hunger/background/special26_1/

環境省の「バーチャルウォーター」説明ページ(※)によると、「トウモロコシ1キロを生産するには、灌漑用水として1800 リットルの水が必要。牛肉1キロ を生産するには、その約20000 倍もの水が必要」だという。

※環境省のバーチャルウォーター資料: https://www.env.go.jp/water/virtual_water/

特にブラジルなど南米では、アマゾンの原生林を伐採して牧場や牧草地に転用するケースが多い。これによる熱帯雨林の減少問題も深刻だ。

■「ベジミート」も理想的な解決法ではない

同時に、ペジミートも「理想的な解決法」とは言い難い。大豆の自給率(2017年、農水省調べ(※)は7%に過ぎない。サラダ油などを除いた食品用に限った大豆の自給率は25%で、全農産物の自給率を下回る。

※農水省によると、国内の需要量(2017年)は約357万トンで、うち国産大豆は約25万トン。国産大豆は種子用(8000トン)を除けば全量が食品用のため、食品用(需要量約99万t)の自給率は高くなる。

ギアリンクス社の資料によると、大豆の主な産地は1位米国(3091万トン)、2位ブラジル(2176万トン)、3位アルゼンチン(1677万トン)。特にブラジルでは、大豆畑をつくるために、熱帯雨林の伐採が問題視されている。

米国でも近年、気候変動による中西部の干ばつが顕著だ。さらに、新型コロナによる港湾での荷揚げの停滞で船賃が上がり、大豆など輸入穀物のコスト上昇を招いた。

こうした傾向が続けば、今後、大豆の調達価格が上昇し、「ベジミート」を直撃する可能性もある。ベジミートは今後も拡大するだろうが、企業も消費者も、地球規模の課題を直視する必要があるだろう。

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山口 勉(オルタナ副編集長)

大手IT企業や制作会社で販促・ウェブマーケティングに携わった後独立。オルタナライターを経て2021年10月から現職。2008年から3年間自転車活用を推進するNPO法人グリーンペダル(現在は解散)で事務局長/理事を務める。米国留学中に写真を学びフォトグラファーとしても活動する。 執筆記事一覧

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