新原子力大綱策定、民意は届くのか

内閣府原子力委員会は、現行の原子力政策大綱に代わる新たな大綱を策定すべく議論を本格化させる。毎月1~2回の割合で会議を行い、年末までに次期大綱をまとめたい考えだ。原子炉の稼働率低迷や核燃料サイクル計画の遅れなど、多くの課題を抱える原子力政策はどこへ向かうのか。

■国民意見は「見直し」9割

【写真】2007年7月、新潟県中越沖地震直後の東京電力柏崎刈羽原発(斉藤撮影)

2005年10月に策定された現大綱は、今後10年程度の日本の原子力政策について基本方針を定める。原子力発電を基幹電力と位置付け、総発電量の3~4割を原子力が担い、プルサーマル発電や核燃料サイクルを着実に進めるほか、2050年までに高速増殖炉の商業炉の導入を目指すなどというのがその内容だ。

しかし原子力政策への国民の視線は厳しい。昨年7月から9月にかけて、原子力委員会が現大綱の見直しの是非をめぐって国民から意見を求めたところ、1205人の回答者の内約9割までもが現大綱の見直しが必要だと答えた。

その理由として最も多かったのが、安全の確保をめぐる不安だ。2007年7月の新潟県中越沖地震では東京電力柏崎刈羽原子力発電所が施設に大きな被害を受けて長期の運転停止を余儀なくされたほか、中国電力島根原子力発電所の1・2号機では昨年春に511か所に上る点検漏れが見つかった。こうしたトラブルや不祥事が、国民の原子力発電への信頼を大きく揺るがし、意見募集に如実に表れた形だ。

■自然エネルギーの普及がカギ

こうした流れを受けて、原子力委員会は昨年11月30日に「国内外の情勢の変化を原子力政策に反映させるべく、新たな大綱の策定を検討する」と発表。1月14日に都内で開かれた新大綱策定会議の2回目の会合では、委員が原子力エネルギーの利用をめぐって意見を交わした。

出席した委員の一人でNPO原子力資料情報室の伴英幸共同代表は「国民から寄せられた意見では原発の新規立地や核燃料サイクルの見直しを求める意見が多かったが、実際に原子力政策がそうした方向に転換するのは容易ではない」と話す。国の基本方針が原子力の推進であることに加え、原子力発電を推進する立場の委員が全体の大多数を占めているのも理由の一つだ。

それでは、原子力政策の見直しはどうすれば実現するのか。伴委員は「政策転換を促すためには自然エネルギーの普及と電力自由化がカギ。消費者が積極的に自然エネルギーによる電力を選べるようになれば、原子力政策も変わらざるを得ないのでは」と話している。(オルタナ編集部=斉藤円華)2011年1月20日

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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