オルタナ総研統合報告書レビュー(2):伊藤忠商事

伊藤忠商事統合レポート2021は、「企業価値算定式(投資判断の視点)」を用いた情報体系で整理されています。また「資本の増強」のために、2030年までのマクロ環境要因分析である「PEST分析」を徹底して行い、「リスク」と「機会」を把握しています。(オルタナ総研フェロー=室井 孝之)

同社は「企業価値の向上を図るには、経済価値と環境・社会価値の全てを拡大していく必要がある」と認識しています。

「企業価値算定式」とは、「創出価値の拡大」(短期目標の達成)と「成長率の向上」(中長期的な価値創造への布石≒中期経営計画「Brand-new Deal 2023」)に向けてものです。

具体的には、「資本コストの低減」(持続的な成長を支える取組み・体制=人材戦略、コーポレート・ガバナンス、サステナビリティ推進体制など)を図ることで、持続的な価値創造の原動力である「資本の増強」という好循環を実現するという考えです。(下図参照)

(出所)統合レポート2021 p21 「三方よし」を中心に据えた価値創造モデル」

同社は「企業価値算定式(投資判断の視点)」を採用し、近江商人に受け継がれるとされる「三方よし」を企業理念に据え、「Brand-new Deal」戦略の継続的実践を通じた企業価値の拡大を目指すストーリーを描いています。

同社は財務ならびに非財務の「資本の増強」のためのツールとして、2030年までのマクロ環境要因分析である「PEST分析」を掲載しています。

「PEST分析」とは、世の中の流れを、Politics(政治的)・Economy(経済的)・Society(社会的)・Technology(技術的)要因の4つの切り口に分け、事業戦略やマーケティング戦略上のリスクと機会を発見する分析手法であり、フィリップ・コトラ―教授が提唱したフレームワークです。
(参考)統合レポート2021 p72-73 「PEST分析(2030年までのマクロ環境要因)」

伊藤忠商事IR部の統合レポート制作担当者である小關亮太氏は、「PEST分析」と「中期経営計画」は、「商人型ビジネスモデル」によって結びついていると説明してくれました。

すなわち、
1) 各現場の商人が『三方よし』の企業理念を軸として資本・強みを活用し、マクロ環境によるリスク・機会を踏まえビジネスを組成
2) ビジネス組成には商いの基本と普遍的手段を意識
3) 数多くのビジネスが組成される中、マテリアリティ(重要課題)を選定
4) 重要課題に対して中長期目標、短期目標の『何れも』重視して各ビジネスを推進」
5) 各ビジネスでの価値創出により企業価値(資本)が積み上がる」という独自のビジネスモデルです。(下図参照)

(出所)統合レポート2021 p20 「『商人型』ビジネスモデル」

同社はマクロ環境要因の影響を踏まえた「リスクと機会」を意識し、時間・環境の変化に応じて自己変革を進めることで持続的な競争優位を構築すると強調しています。

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室井 孝之 (オルタナ総研フェロー)

42年勤務したアミノ酸・食品メーカーでは、CSR・人事・労務・総務・監査・物流・広報・法人運営などに従事。CSRでは、組織浸透、DJSIなどのESG投資指標や東北復興応援を担当した。2014年、日本食品業界初のダウ・ジョーンズ・ワールド・インデックス選定時にはプロジェクト・リーダーを務めた。2017年12月から現職。オルタナ総研では、サステナビリティ全般のコンサルティングを担当。オルタナ・オンラインへの提稿にも努めている。執筆記事一覧

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キーワード: #ESG#SDGs

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