「新しい資本主義」、構築に向け積極的な関与を

【連載】サステナビリティ経営戦略(11)

10月4日、岸田新内閣が誕生しました。新内閣では、成長戦略とともに富の再分配を重視する「新しい資本主義」の構築を目指すとしていますが、まだ具体的な姿は見えてきていません。今後の展開に注目したいと思います。(サステナビリティ経営研究家・遠藤 直見)

■ステークホルダー資本主義が求めるサステナビリティ経営

近年グローバル社会では、行き過ぎた株主至上主義への反省から資本主義のアップデート(新しい資本主義の構築)が叫ばれています。

昨年1月に開催された世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)は、資本主義の再定義が主題となりました。株主への利益を最優先する従来のやり方は、格差の拡大や環境問題という副作用を生んだという問題意識から、株主だけでなく顧客、従業員、取引先、地域コミュニティ及び地球環境にも配慮したステークホルダー資本主義が提唱されました。

今年のダボス会議(8月にシンガポールで開催予定だったが、コロナ禍で中止)のテーマは「グレートリセット」でした。グレートリセットとは既存の経済社会システムの大転換であり、その根幹となるのがステークホルダー資本主義です。

ステークホルダー資本主義の全体像はまだよく分かりませんが、これからの企業経営には、短期的には必ずしも利益に繋がらなくとも、将来世代を含む幅広いステークホルダーのために社会への価値提供を果たし、地球環境と人類社会の持続可能性を高めることが求められていることは間違いないと思います。

そのためには、企業がステークホルダーとの協働を通して、パーパス(存在意義)とメガトレンド分析に基づく長期ビジョンを描き、その実現に向けたビジネスモデルと戦略を作り上げ、持続的な成長と社会の発展に貢献する経営(サステナビリティ経営)に取り組むことが肝要です。

■サステナビリティ経営を支える資本市場の形成へ

ステークホルダー資本主義を構築する上で重要なことは、経営者や投資家が、サステナビリティ経営が実現する企業価値(経済価値+社会価値)を包括的かつ適正に評価・判断できるような資本市場の形成です。

このようなサステナブルな資本市場の形成が、企業の力を最大限引き出し、社会の持続可能性や人々の幸福(ウェルビーイング)を織り込む新しい資本主義の構築に繋がっていくことになると思います。

このような取り組みの一つに、ハーバード・ビジネス・スクールのジョージ・セラフェイム教授らによるインパクト加重会計イニシアチブ(IWAI)があります。

既存の財務諸表は、環境や社会課題に関する損益を捨象しており、企業価値を包括的かつ適正に表していないと言われています。

IWAIは、このような課題に取り組むため、企業活動が、財務資本や物的資本だけでなく、人的資本、社会的資本、自然資本に与えるインパクトを測定及び貨幣価値換算し、経営者や投資家の意思決定に反映できるようにすることを目指しています。

セラフェイム教授が世界1800社を対象に実施した調査では、会計上は外部化されている環境関連コストを差し引くと、2018年にEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)が黒字だった1694社中543社は利益が25%以上減少したことが確認されています。

■日本企業はルールメイキングへの積極的な関与を

株主資本主義からステークホルダー資本主義への転換の流れはもはや必然とも言えます。しかしながら、ステークホルダー資本主義の構築に向けた取り組みでは、今のところ欧米の企業・組織の存在感が目立ちます。

日本企業は、サステナビリティ経営に戦略的に取り組むと共に、このようなルールメイキングに積極的に関与し、国際的な議論をリードしていく主体的な姿勢が求められています。

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

執筆記事一覧
キーワード: #SDGs

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..