北朝鮮の闇を白日の下に。映画「ザ・モール」

右がウルリク氏。2020年ノルウェー・デンマーク・英国・スウェーデン合作映画「THE MOLE(ザ・モール)」より © 2020 Piraya Film I AS & Wingman Media ApS

■ 10年間も北朝鮮の信奉者を演じた元料理人

マッツ・ブリュガー監督のドキュメンタリー映画「THE MOLE(ザ・モール)」が、10月15日から全国で順次公開される。一人の北欧人が決死の覚悟で仕掛けたマイクやカメラが、国連の制裁にもかかわらず北朝鮮が続けていた武器ビジネスの証拠をとらえた。潜入調査のために10年間も北朝鮮の信奉者を演じたデンマーク人のウルリク・ラーセン氏に話を聞いた。(オルタナ編集委員=瀬戸内千代)

「世界中の誰もが同じく自由と愛を味わう権利を持つ。だから北朝鮮の市民のことを思うと悲しくなる。彼らには逃げ場がありません」と語るウルリク氏は、元料理人である。調査活動に入る際は、好きなメタル音楽を聞いて気持ちを切り替えていたという。

当初から映画化を目指し、プロデューサーから「撮影できるの?」と問われた際は、自信がないことを隠して「スピルバーグ並みの腕前です」と答えたと笑う。映画には彼のほかに、スタッフや、自国の広報目的と信じた北朝鮮の人が撮影した映像も含まれる。

■ 東ドイツで実感した民族の分断

父親がフェリーの仕事をしていたウルリク氏は、東西ドイツの違いを見て育った。子供のころ、訪問した東ドイツで、前日のスポーツ観戦の名残で思わず西ドイツ国歌を口ずさんだ時は、東ドイツの友だちにいきなり口をふさがれ、カルチャーショックを受けたという。

そうした経験から、やはり戦争によって南北に分断された朝鮮半島に興味を持った。2011年にコペンハーゲンの北朝鮮友好協会に入会。やがて、朝鮮親善協会(KFA)会長のスペイン人と親しくなり、彼らの活動の闇に潜入していく。

■ 映画の製作・公開で感じる「北朝鮮の焦り」

この映画は、外国人の投資家役を登場させることで急展開を迎える。「投資家と接触して5分で、彼らは兵器の話を始めた。なんて狂っているんだと思いました。そんなものを売れば、簡単に内戦やテロ行為につながってしまう」。

映画は2020年に欧州で公開され、日本でも2021年2月に一部映像がNHK-BSで放映された。マッツ・ブリュガー監督に反響を聞くと、「まだその途上ですが、世の中に変化は起きています。私は本作の制作を通して、北朝鮮の焦りを感じました」と答えた。デンマークではこの冬、ウルリク氏が自らのスパイ体験をつづった本が出版されるという。

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瀬戸内 千代

オルタナ編集委員、海洋ジャーナリスト。雑誌オルタナ連載「漁業トピックス」を担当。学生時代に海洋動物生態学を専攻し、出版社勤務を経て2007年からフリーランスの編集ライターとして独立。編集協力に東京都市大学環境学部編『BLUE EARTH COLLEGE-ようこそ、地球経済大学へ。』、化学同人社『「森の演出家」がつなぐ森と人』など。

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キーワード: #ビジネスと人権

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