トヨタの問題解決手法でNPOのマネジメント向上へ

トヨタ財団は10月21日、トヨタ自動車の問題解決手法をNPO向けに伝える連続講座「トヨタNPOカレッジ『カイケツ』」の説明会を開いた。同講座は、社会課題解決の担い手である非営利組織のマネジメントを改善し、より大きな成果を出してもらうことが目的だ。2022年1月に始まる第6期は、11月15日まで受講者を募集している。(オルタナ副編集長=吉田広子)

トヨタ財団は、助成金を拠出するだけでなく、NPOに問題解決力を身に付けてもらうことを目的に、2016年から「トヨタNPOカレッジ『カイケツ』」を開催している。NPOが抱える組織上の問題点を改善し、社会的課題の解決を後押しする。

トヨタの問題解決は、「テーマ選定」「現状把握」「目標設定」「要因解析」「対策立案」「対策実行」「効果の確認」「標準化と管理の定着」の8ステップからなる。取り上げるテーマは、「代表者に仕事が集中する」「業務効率が悪い」「同じミスを繰り返す」といった、事業を進めていくうえで発生する問題だ。

問題解決手法としてよく知られているのが、「魚の骨図(フィッシュボーン)」と「なぜなぜ分析」だ。8ステップの4つ目、問題を発生させている要因を探る「要因解析」の一環で活用されている。

特性要因図は、まず、右端に特性(結果)を記入する。次に、4M(人、機械・設備、方法、材料)で分類しながら、魚の骨のように要因を書き出していく。この時に、「なぜ、なぜ」を5回繰り返しながら、要因を分解するのがポイントだ。

「カイケツ」では、こうしたプログラムを通して、約7カ月間かけて問題解決のプロセスをA3用紙1枚にまとめていく。少人数のグループワークが中心で、NPO同士横のつながりもできる。

講師は長年品質管理に携わってきた古谷健夫氏(クオリティ・クリエイション代表取締役)、鈴木直人氏(元日野自動車株式会社TQM推進室室長)、中野昭男氏(のぞみ経営研究所代表)が務める。

■「自分がやった方が早い」では成長しない

NPO法人presentsの佐々木隆紘さん(右上)、中部品質管理協会の細見純子さん(右下)、かぬま市民活動サポーターズの渡邉博和さん(左下)、トヨタ財団国内助成グループの武藤良太さん

説明会では講座の概要紹介のほか、第5期(2020年度)の受講者が体験談を語った。

NPO法人presents(東京・足立)代表理事の佐々木隆紘さんは、思いを共にする理学療法士の仲間らと2017年にNPOを設立。子育て支援や子どもの居場所づくりを通じて、子どもの自己肯定感を育むことを目指して活動を続ける。2021年8月には東京都足立区に地域の拠り所として「駄菓子屋かしづき」をオープンした。

同NPOのスタッフは、副業的に携わっているため、代表の佐々木さんに業務が集中しがちで、その問題意識からカイケツに参加した。「カイケツ」では、隙間時間でも取り組みやすい「広報業務」を題材に、「全スタッフの広報業務を強化するための仕組みの構築」を問題解決のテーマに掲げた。

佐々木さんは「広報業務が不十分」という問題を「代表」「スタッフ」「システム」の3つに分けて要因解析を行った。

佐々木さんがまとめたA3資料

「外部の課題に集中していて、これまで組織内部に目を向けてこなかった。なぜ自分に業務が集中するのかを考えるなかで、『自分でやった方が早い』と思い、勝手に動いてしまっていたことに気付いた。そうすると、組織として成長できなくなってしまう。スタッフの現状把握もできておらず、コミュニケーションが不足していた」(佐々木さん)

対策として、定期ミーティングや個別面談をしたり、目的意識を共有する場を持ったりしたことで、少しずつ活性化してきたという。

カイケツについて、佐々木さんは「長く法人運営をしていくためのマネジメントを学ぶことができた。グループワークでは、抱えている問題について、うまく言語化できていないことや混乱しているところを講師が丁寧に整理してくれた。参加しているほかの団体の問題も、自分事として考えることで、『8ステップ』を体得できていった。相談相手がいない人にも『カイケツ』をすすめたい」と話す。

対策の前に「真因の追求」を

かぬま市民活動サポーターズ(栃木県鹿沼市)は、市民活動の拠点「かぬま市民活動広場ふらっと」を運営する非営利活動団体として組織された。中間支援組織として、NPOや市民団体、企業や行政の協働を促進し、市民主体のまちづくりを目指す。

最近では、ひきこもる中高年の子と高齢の親が孤立する「8050(はちまるごーまる)問題」にも取り組んでいるという。

同NPOの渡邉博和さんは、「中間支援組織として事業の受託を行っているが、行政からの委託費削減や各事業の見直しもあって、さまざまな問題が顕在化してきた。だが、なかなか計画的な見直しができていなかった。カイケツは組織を見直す機会になり、『トヨタ』という看板も組織内で説得力を持つと思った」と参加の経緯を振り返る。

渡邊さんは、スタッフの多くが課題を感じていた「情報紙作成業務の見直し」をテーマに問題解決に取り組んだ。情報紙作成業務は、委託費だけでは採算が取れず、赤字になってしまっていた。そこで業務ごとに作業時間を計測していった。

紙面制作のなかで最も時間を使っていたのは記事作りだった。なかでも入力作業に月480分かかっていた。それを月240分に短縮することを目指した。工程管理版の作成や編集ソフトの導入などで、月273分まで削減できたという。

渡邊さんがまとめたA3資料

渡邊さんは「これまでは問題を感じると、要因を考える前に、ぱっと思い付いた対策を講じていた。それでは根本的な解決につながらず、問題を引き起こしている『真の要因』を徹底的に考えることの重要性を実感した。カイケツでは講師のアドバイスが的確で分かりやすかった。問題の大小関係なく、カイケツで学んだ手法はこれからも応用できそうだ」と語った。

2022年1月に始まる第6期(2021年度)カイケツは、11月15日まで受講者を募集している。申し込みはトヨタ財団のウェブサイトまで。

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #NPO#SDGs#寄付

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