COP26 なぜ食料産業は重点課題に挙がらないのか

いよいよCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)の開催が近づいてきた。BBCは、日本も含めた複数の国が、気候変動への対処法に関する重要な科学報告書の内容を変更しようと働きかけていると報じた。BBCは膨大な流出文書で確認したという。(オルタナ客員論説委員=井出 留美)

残念なニュースではあるが、ともかく、10月31日からCOP26が開催されることに変わりはない。IGES(地球環境戦略研究機関)の研究員の解説によれば、気温上昇を1.5℃に抑えるため、COP26議長が挙げた重点課題は下記の通りだ。(参考資料

1)石炭の段階的廃止の加速
2)森林破壊の削減
3)電気自動車への切り替えの加速
4)再生可能エネルギーへの投資奨励

ここで2021年1月に翻訳出版された『DRAWDOWN (ドローダウン)地球温暖化を逆転させる100の方法』を見てみたい。

この書籍は、米国の環境保護活動家ポール・ホーケン氏が呼びかけ、世界22か国の70名の科学者と120名の外部専門家による徹底した評価・検証に基づいて、地球温暖化を「逆転」させるための実現可能な解決策を100通り解説している。100の解決策は、「二酸化炭素の削減量」「費用対効果」「実現可能性」によって、1位から100位までランクづけられている。

たとえばCOP26の主要議題の一つである「電気自動車」を見てみると26位だ。「森林保護」は38位。「トラックの燃費向上」は40位。「飛行機の燃費向上や旧機種の早期引退」は43位となっている。

『ドローダウン』の検証結果による上位10位は次の通りだ。

10位:屋上ソーラー
9位:林間放牧
8位:ソーラーファーム
7位:家族計画
6位:女児の教育機会
5位:熱帯林の再生
4位:「植物性食品」中心の食生活
3位:食品ロスの削減
2位:陸上の風力発電
1位:冷媒(代替フロンなど)

筆者がテーマとして取り組んでいる「食品ロス削減」は、100位中3位だ。世界の温室効果ガスの排出量を見ても、仮に世界から排出される食品ロスが1つの国から排出されていると仮定すると、中国、米国に次いで、第三位の排出源となる(参考:世界資源研究所)

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今回、議題に上がっている自動車の、世界の温室効果ガスに占める割合は10%。世界の食品ロスが占める割合は8〜10%と、ほぼ同等である。さらにいえば、世界の食料産業が排出する温室効果ガスが世界の排出量に占める割合は21〜37%にも及ぶ。なぜ自動車が主要議題に挙げられ、食料産業は重点議題に挙がらないのだろう。

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気候危機の影響は、人の生命や健康にも及んでいる。今年9月、ランセットなど世界5大医学誌を含む230誌以上の医学誌の編集者は、「人の健康は気候危機によって既に損なわれつつある。各国政府が地球温暖化対策にもっと力を入れない限り、取り返しのつかない壊滅的な影響を及ぼす恐れがある」と、共同論説で警鐘を鳴らした。(参考資料

英国の医学誌BMJは、これほど多くの医学誌が一丸となって同じ声明を掲載したことは今までになかったという。

2021年8月、世界気象機関は、世界の気象災害が過去50年間で5倍に増加し、その経済的な損失は3兆6,400億ドル(約400兆円)に達したと報告した。気候危機は、環境負荷や経済的な損失のみならず、人々の生命や健康にも甚大な影響を及ぼす。科学者の徹底的な検証に基づき、10月31日からのCOP26で議論されることを願う。

<参考動画>

Paul Hawken: Project Drawdown | Real Time with Bill Maher (HBO)

ドローダウン:地球温暖化を逆転させる包括的な計画|ポールホーケン| SUグローバルサミット

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井出 留美(オルタナ客員論説委員)

ジャーナリスト。奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11で廃棄に衝撃を受け誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力。近著『捨てないパン屋の挑戦』『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てられる食べものたち』『食品ロスをなくしたら1か月5,000円の得!』、監修書『食品ロスの大研究』他。食品ロスを全国的に注目されるレベルに引き上げたとして第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/令和二年度 食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。「メディアが報じない世界の食品ロス情報 SDGss世界最新レポート」連載中。

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