課題多き社会を「ともに生きる」 Z世代の起業家たち

前回のコラムで伝えたかった、「元祖サステナブル」な縄文人らしさ。三内丸山遺跡(青森県)と同じく世界遺産入りを果たした入江貝塚遺跡(北海道 洞爺湖)からは、幼いころに筋萎縮症にかかった成人の骨が発見されました。これは、その成人が肢体不自由という重い障がいを持ちながらも、集落内で手厚い介護を受け、長期にわたり生きながらえたことを伝えています。おそらくその時代の人々にとって、障がい者とともに生きる事は特別なことではなく「あたり前」だったのではないでしょうか。(那須 りな)

入江貝塚 全景(出典:JOMON ARCHIVES)
入江貝塚 筋萎縮症に罹患した成人の人骨(出典:JOMON ARCHIVES)

音楽の起源を遡っていくと、生きるために集団で行うクジラ漁のように「大勢の人間が力を合わせる必要性」から、息を合わせるための集団合唱や、打楽器のリズムが生まれたともいいます。集団行動が必要なかった民族は、あまり歌が得意でなかったとも。

そう考えると、時代ごとの社会課題であったり、障がいといったものは必ずしもネガティブなものではなく、むしろより良い社会をつくるためのきっかけなのかもしれません。

自分を振り返っても、大学卒業後は主に広報の仕事に携わり、保育とは無縁の生活を送っていましたが、「子どもに発達障がいがあるかもしれない」というきっかけをもとに38歳で保育専門学校へ入学したことから、社会的に弱い立場の人に対して、「自分ごと」として以前より関心を寄せられるようになりました。

今の世の中で「困っている立場の人」と聞き真っ先に思い浮かぶのは、障がい者、高齢者、経済的自立が困難な方、公的支援が必要な子ども、などでしょうか。

そして「支援する側とされる側」ではなく、「共存共栄の仕組みや取り組み」が世の中に増えてきていると最近実感する機会がありました。それでは「きっかけ」をそのままにせず、ともに繁栄する取り組みを形にしていく人や企業には、どんな共通項があるのでしょうか。

途上国の貧困課題に挑む煙草さん、きっかけは「ピーナツ工場」

たとえば、「途上国の貧困課題」と聞いたとき、多くの人がイメージするのはやせ細ったストリートチルドレン、物乞いをする人々、などでしょうか。

そういった方々の助けになればと募金を経験された方も、おそらくいらっしゃると思います。けれど、募金が現地で使われるのは、学生時代の授業によれば数%とも。募金箱の先の使い道に想いを馳せる人は、まだまだ少ないのかもしれません。

この「途上国の貧困課題」に挑むのが、ビジネスレザーファクトリー(以下、BLF)で働く煙草 将央さん。父親の影響もあり、もともと海外志向だったという彼は大学3年時にドミニカ共和国の最貧地域にあるピーナツ工場を訪れ、「そこで働く、9割以上の方が読み書きや計算が出来ない」ことに衝撃を受けました。

ラテンの国で暮らし明るく幸福そうに見えても、もし「自分の人生を変えたい」と思ったときにこの人たちは一体何ができるのだろうか。

生まれた環境によって生み出される不条理が、子どもにも代々連鎖してしまうのではないか。そこに猛烈なやるせなさを感じ「同じ時代を生きる者として、この問題のために何かをやりたい」と感じたといいます。

煙草 将央さん:学生時代に、ドミニカ共和国のピーナツ工場で働く方々と

この「きっかけ」を胸に大学を休学し、東ティモールのコーヒー生産者を支援するNGOでインターンとして働いた彼は、現地の方々の「良い豆を育てる、生産者としての誇り」に直に触れます。

一方で、日本でのフェアトレード商品はまだまだ「品質は分からないけれど、貧困層の人を助けられる商品」といったイメージ。この「かわいそう」という憐れみから生まれる消費構造に対等ではない上下関係を感じ、現地を知る当事者として大いに違和感があったといいます。

そして、帰国後に就職活動をした煙草さんは、アジア最貧国であるバングラデシュに障がい者やシングルマザーなど、「ほかの会社では働くことが難しい人たち」を雇用する革製品工場を設け、その商品力とサービス力で多くのファンをつくるBLFに入社を決意。

「フェアトレードだから買ってあげました」ではなく、「品質そのものが認められ、選ばれること」が生産者の誇りとお客様の笑顔を育むと煙草さんは信じて、現地と日本をつなぐ渡航プロジェクト、組織づくり、商品企画などにまい進しています。

バングラデシュの現地工場で、打ち合わせの様子
独自の仕組みで、丁寧な指導・ものづくりが行われる

日本の超高齢化社会課題に挑む上妻さん、きっかけは「限界集落のおばあさん」

次に、国内に目を向けると、社会課題として真っ先に上がる「超高齢化社会」。介護ワーカーだけでなく、「高齢者の孤独を気にかけ、コミュニケーションを取れる人材」も含めると、介護業界では実に数十万人の人材が足りていないとされます。

リジョブでこの課題に取り組むのは、上妻 潤己さん。彼には大学院生時代に、対馬の限界集落に住まう独居高齢者と同居生活を過ごした経験があります。そこで出会ったのは、言葉もあまり発さず、歩行器を使い歩くのもやっとだった85歳のおばあさん。

彼女にとって「学生たちのために食事を作ること」が生きるモチベーションとなり、1年後には自力で歩けるほどに、体も心も若返った姿を目の当たりにして、幾つになっても人は「誰かのためになりたい」という想いを持っていることを実感しました。

おばあさんとの1年間の共同生活によって、彼自身が「これからの高齢期の生き方、介護課題」を身近に感じ、当事者意識を持てるようになったといいます。

上妻 潤己さん:対馬の限界集落で同居していた、おばあさんと

では、おばあさんはただ「支援される側」の立場だったのでしょうか。大学院に戻り、介護の勉強に力を入れたという上妻さんですが、現場を見たことで、行政としての支援の必要性も感じつつも、同時に行政による支援の限界も感じたといいます。

そして、これまでの日本を支えてきた高齢者の方々が生きがいを感じられる社会をつくるには「新しい介護課題解決の仕組みをつくり、経済をまわすことで持続可能な支援をする」ことが解決の糸口になると、思い至ったといいます。上妻さんの突破口を開いてくれたのは、おばあさんとのリアルな共同生活でした。

おばあさんを囲んで記念撮影

そして、短時間・業務特化の「介護シェアリング」という仕組みを通し、介護に携わる方々のすそ野を広げる事業を推進するリジョブへ入社。現場に介護ロボットの導入が進む中で、ロボットには担えない「コミュニケーション」部分を担えるワーカーを増やし、高齢者が人とのつながりを感じられる社会を創りたい、そのつながりの先に、高齢者側が「ありがとう」といわれる社会をつくりたい、という想いを抱いています。

「きっかけ」から一歩を踏み出すために

社会課題に関心の高い二人ですが、意外にも声を揃えて「正しいことをやっているという義務感や責任感だけでは疲弊してしまい、やり続けていてしんどいときもあります。だからこそ、仕事上での“楽しさ”“チーム力”が大事だと思います」といいます。

そして、社会の課題に出会い、解決への一歩を踏み出す二人に共通するのは、心が動いた「きっかけ」を忘れず当事者意識を持ち続けるために、絶えず現場の声に触れることと、課題の根本原因を内省すること。「支援する・される」ではなく「ともに共存する」方向性で解決策を考えること。また二人が働くBLFとリジョブに共通するのは、「誰かのためになりたい」という想いが循環する、自走型のワンチーム・組織を目指しているということでした。

ビジネスレザーファクトリー:煙草 将央さん
リジョブ:上妻 潤己さん

途上国の貧困と国内の超高齢化社会、扱う社会課題は大きく異なる2社ですが、事業づくりや組織づくりなど、幹となる部分で重なる考え方は非常に多く、Z世代がけん引する、令和のソーシャルビジネスの可能性を感じました。

今回紹介した2社のほかにも、世の中には美味しくセンスもいいチョコレート工房やベーカリーショップなど、社会的な不自由さを抱える方々が関わっていると知って2度感動するビジネスや取り組みが増えてきています。

資本主義経済社会では「生産性」が優先度高く考えられがちですが、障がいや出身国、年齢、病気や事故など、個人の努力ではどうにもならない理由で生産性を上げられないことが、生きていれば往々にして起こります。

そういった時に、生産性が低いからと切り捨てるのではなく、支援する側・される側といったバイアスをかけずに共存する道を探ることが「あたりまえ」の社会になったなら、全ての人にとって、もっと世の中が生きやすくなるのではないでしょうか。

那須りな:
PRSJ認定 PRプランナー
株式会社リジョブ 広報担当
国際縄文学協会 会員
CSRリーダー

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nasu

那須 りな(リジョブ 広報)

早稲田大学社会科学部 および 大原医療福祉保育専門学校卒。大学卒業後、PR会社を経て専門学校で保育を学び、音楽療法や障がい児療育に携わった後、ソーシャルベンチャー「リジョブ」の広報担当に。「事業を通した社会課題の解決」に若いメンバーと共に挑む、時短広報ワーキングマザー。オルタナでは、不定期で“社会性”に縁あるコラムを執筆。

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