夫婦で起業、郊外にシェアオフィス 地域のハブに

日本初の社会起業に特化したビジネススクール社会起業大学。約600人輩出してきた卒業生は今、どんな活躍をしているのか。同大学の林浩喜学長が卒業生にインタビューする連載企画第11弾は今年2月に起業したばかりの花泉裕一郎さんを紹介する。42歳、夫婦で起業した花泉さんは郊外に地域住民のハブとなるシェアオフィスを立ち上げた。(社会起業大学)

千葉県柏市で育った花泉裕一郎さんは私立の中高一貫校に進学する。奥様とはここで出会い、中高6年間をともに過ごす。その後、関西にある大学に進学し、社会人3年目に結婚した。20年のサラリーマン生活後に社会起業大学に入学。会社を辞めて起業した花泉さんは公私ともに充実した日々を送る。

42歳から「起業家」へ

42歳同士の仲良し夫婦の起業。どちらかというと普段は無表情な印象の花泉さんなのだが、インタビュー中のその緩んだ口元からはいかに奥様(美帆さん)を愛しておられるかが伝わってくる。

その出会いはなんと30年前の中学1年生時代に遡る。同じ中高一貫の共学校で多感な6年間を共にしたわけだ。大学で関西に進学した花泉さんは美帆さんと一旦別々となるのだが、そこから遠距離恋愛が始まる。

就職して花泉さんはデベロッパー業務に邁進し、美帆さんはCAで世界を飛び回っていた。結婚し、娘さんを2人授かったのは嬉しかったが、生活面でより負荷がかかったのは実は花泉さんだった。

当時幼稚園児だった娘さんの送迎、仕事、掃除洗濯食事等の家事。国際線の乗務員だった美帆さんは2泊4日で家を空けることが多かったので、仕事をこなしながらの育メンパパだった。

さすがに肉体的に限界がきてしまった。また当時勤務していた会社のカルチャーにも馴染めず、溜息の多い日々だったと奥様も述懐する。このままだと健康を損なうのは時間の問題だと。

楽天的な美帆さんは健康でありさえすれば家族4人食べて行けると思っていたので、むしろ退職して彼女の実家の農地を使って農業をしてみたら?と勧めていたそうだ。ところが、花泉さんは内心起業の道を考え始めていた。

高校生時代の花泉さんと美帆さん

「タイミングと勢いが大事よ」

社起大には奥様に相談せずに独断で入学した。ビジネスの勉強もさることながら、「本当にやりたいことは何なのか」をとことん自問自答し、それを毎回まとめてクラスでスピーチすることが価値だったという。

少しずつ精神の膿が排出され本来の自分を取り戻すと同時に、徐々に内部からエネルギーが沸き立つのを感じた。実は社会起業家とは何かも知らずに入学したのだが、その内容を知るほどに従来型の起業家以上に意味のある生き方だと感じ、モチベーションはさらに高まった。

取り組む社会課題は通勤問題の解決(職住接近)と失われつつある地域コミュニティの復活。入学時点では起業テーマが決まっていなかったのだが、花泉さんは言う。

「ビジネスネタは探し続けてもそんなに簡単に出てくるものではないですよ。その時点でやりたい!と思っていることをやってみればいい。そうしないと理想のビジネスアイデアなんて待っていたら人生が終わってしまう」と。

横で美帆さんが深く頷いていたのが印象的だった。ちなみに花泉さんが週末に社起大に通っていた時も、美帆さんは何をしているのかも知らなかったそうだ。たまにシャキダイがどうのこうのと言っているのを聞いて、「何のことなのかしら?」程度にしか思わなかったそうだ(笑)。社起大2期目に入って初めて起業することを美帆さんに相談してみた。

すると呆気なく、「それなら早く始めたらいいじゃない」「もしうまくゆかなければやめればいい」「それよりもタイミングや勢いが大事よ」というもの。奥様のこの強さ優しさ、まるで観音菩薩のようだ。

第22期の最優秀賞を見事受賞 右端が花泉さん

郊外に立つ進化系シェアオフィス

花泉さんのビジネスコンセプトは進化形シェアオフィスだ。まずはロケーション。シェアオフィスといえば、通常は都心の駅近くというのが立地の相場。それが新松戸という郊外各停駅のしかも徒歩約10分の住宅隣接地。

これは無駄なエネルギーを20年間のサラリーマン通勤で費やした花泉さんの辛い経験から来た職住接近のアイデアであり、長年不動産業界にいた知見も生かしたニッチ戦略だ。

もう一つはカフェバーの併設により地域のコミュニティハブの機能を果たしたいという願望だ。美帆さんは元CA、しかも幼稚園のPTA会長も務めたくらいのホスピタリティ溢れる元気ママ。実際現在多くの近隣のお客様が入れ替わり立ち替わりカフェ担当の奥様に会いに来るという。

また花泉さんは社起大で事業計画書を書き上げるプロセスでクラスメートや講師と交わした対話、議論がそのまま行政や金融機関との資金獲得交渉にダイレクトにそのまま役立ったと振り返る。

行政との補助金交渉ではすでに優先の方がおられ、ウェイティングの3番手だったそうだが、花泉さんのソーシャルミッションの強さが担当者に伝播し、1番手に格上げされての補助金実行だったそうだ。

嬉しいことに開業と同時に各種メディアからも取材がたくさん入り、なんとシェアオフィスの先行大手企業からも協業の申し入れが複数舞い込んだ。ちなみに10月に入り今週もNHK、TBS、テレ朝と3本のテレビ取材が入った。

このスマイル、苦労もあるが充実した日々を送る花泉ご夫妻

コロナ真只中の今年2月開業、もちろん何もかもが想定通りだったというわけではない。現在も産みの苦しみの渦中でもある。しかし夫婦で話し合いながら根気強く前進している。

その証拠に2人の表情には希望が満ちている。お互いの強みが全く異なり、考え方も全く異なるのが良かったという。意見が合わなくて当然という前提、それぞれの強みに特化しているから喧嘩にもならないという。

美帆さんがインタビュー中に惚れ直したといった感じの表情で花泉さんを褒めたのは、口数の多くない実直な花泉さんが、これほど周りの人々からの信用を得られる人とは思っていなかったことだという。

そして小学生の娘さん2人もパパママが知らないところで宣伝活動をしてくれているというではないか。話を聞いて思わず大笑いしてしまったが、こんなに素晴らしい話が他にあるだろうか。

地域の人々への告知、学校でも友達やその保護者、担任の先生にまで口コミしていたそうだ。やはり娘さんたちは語らずともちゃんと分かっているのだ。「パパママが本気で自分の人生を生きていること」を。この話には正直感動した。

今週に入りメディアも大注目の炬燵ワーキングスペース

社会起業を考える皆さんへのメッセージ

以下は2人からの熱いメッセージだ。

始める前から失敗を考えすぎるな!
失敗してもそれを失敗と認めなければいい!
みんな一体何が怖いの?最後は勇気を持って飛ぶしかないでしょ!
でも万一に備え、幾ばくかの蓄えがあればなおいい(花泉さん 笑)

行政だって国だって積極的に起業支援をしてくれているし、起業環境は年々ベターになっている。あとは自分次第。

「本当にやりたいことをやろう!」
「人生の時間はあっという間に過ぎてゆく!」
「バカになれ!考えすぎるな!」

花泉さんは起業を通じて多くの人々と繋がってゆく楽しさ、引き寄せ力という新しい才能を発見できた嬉しさ、今までに無かった新しい自分の世界が出来つつある喜びがあるという。最後に美帆さんが付け加えた「彼はどんどん元気になっていっていますよ!」

夫婦起業という古くて新しいカタチ、素敵だと思いませんか?

花泉裕一郎さん
社会起業大学 第21・22期修了
CoworkingSpaceFlat Café&Bar

林 浩喜
社会起業大学 学長

shakidai

ビジネススクール 社会起業大学

2010年設立。日本で最初の社会起業家育成に特化したビジネススクール。500名上の卒業生がおり日本各地の他東南アジア、アフリカ、アメリカなど世界各国で様々なソーシャルビジネスに取り組んでいる。2020年に社会起業大学株式会社を設立し、さらなる発展に向けてスタートを切った。執筆記事一覧

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