「ゼロカーボンシティ」表明をしない7県の事情とは

2050年までにCO2排出実質ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ」を表明した自治体数は479で、全自治体の3割弱となっている(環境省まとめ・2021年10月29日現在)。都道府県数で見ると40だが、まだ表明をしていない7県について、その理由と背景を聞いた。(オルタナ編集部・長濱慎)

10月29日現在、40都道府県、287市、12特別区、116町、24村が表明

■産業部門の削減シナリオがネックに

21年10月末現在、「ゼロカーボンシティ」を表明していない県は、秋田県、茨城県、埼玉県、石川県、愛知県、山口県、福岡県の7県だ。このうち回答が間に合わなかった石川県を除く6県について、その事情を紹介する。

・秋田県「作業の進捗に合わせて表明を検討」

21年度いっぱいかけて、地球温暖化対策に関する計画の改定を行っている。その作業の進捗状況に合わせて、表明するかを検討したい(温暖化対策課)。

・茨城県「産業部門の削減の見通しが立っていない」

県全体のCO2排出量の6割以上を占める、産業部門の削減の見通しが立っていない。今後技術革新があれば可能になるかもしれないが、現状ではなかなか「50年実質ゼロ」というシナリオを描けず、簡単に表明はできない(環境政策課)。

・埼玉県「裏付けがある計画ができ次第、表明」

現在、地球温暖化対策を策定しており、しっかりとした裏付けのある計画ができ次第、「ゼロカーボンシティ」を表明したいと考えている(温暖化対策課)。

・愛知県「カーボンニュートラルの取り組みに変わりはない」

21年6月に「あいちカーボンニュートラル戦略会議」を設置した。「ゼロカーボンシティ」の表明にこだわっていないが、カーボンニュートラルに向けた取り組みを加速していくことは変わらない(環境局 地球温暖化対策課)。

・山口県「セメント製造業の排出量削減が課題」

県全体のCO2排出量の約7割を占める産業部門、とくにセメント製造業の排出量削減が課題になっている。これをどのように減らすかは、経済活動と関係あるので非常に難しく「ゼロカーボンシティ」の表明に踏み切れていない(環境政策課)。

・福岡県「21年度中に表明の見通し」

21年度中に、地球温暖化対策に関する計画の改定を予定しており、50年カーボンニュートラルの実現に向けた具体的な施策を盛り込む。その公表をもって「ゼロカーボンシティ」を表明することになる見通し(環境部環境保全課)。

以上のように、タイミングの要因が明らかになった一方で、産業部門の排出量削減という課題が浮き彫りになった。

環境省のデータによると、鹿島臨海工業地帯のある茨城県は総排出量約3940万トンのうち約2440万トンが産業部門によるものだ。また、国内のセメントの4割弱を生産する山口県は、総排出量約2960万トンのうち約2200万トンを産業部門が占めている。

一方で、岡山県や大分県のように、産業部門の排出量が7割を超えていても「ゼロカーボンシティ」を表明した自治体もある。

しかし、再エネの拡大といったシナリオを描きやすい電力部門と異なり、産業部門は排出量削減の決定的な方法がまだ見えていない。 英グラスゴーで開幕したCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)において、岸田文雄首相は2兆円のグリーンイノベーション基金の活用を表明した。産業部門のイノベーションも、喫緊の課題となっている。

S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

執筆記事一覧

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..