「脱石炭」潮流、JICAとJBICの責任も重たい

英グラスゴーで開催中のCOP26で11月4日、46ヵ国が石炭火力発電の廃止・新規建設停止に署名し(日本は不署名)、「脱石炭」の潮流が一層明確になった。日本の石炭火力発電所輸出の推進役だったJICA(国際協力機構)と JBIC(国際協力銀行)の責任も問われている。(オルタナ編集部・長濱慎)

世界的な「脱石炭」に踏み切れない日本

脱石炭に追従できない「黄金の三角形」

JICA(北岡伸一理事長)は1974年の設立(前身の国際協力事業団)以来、日本のODA(政府開発援助)を軸とする二国間途上国支援の担い手だ。その業務には技術協力、資金協力(有償/無償)、ボランティア派遣などがある。

JBIC(前田匡史総裁)は1950年設立(前身の日本輸出銀行)の、日本政府が全株式を保有する政策金融機関だ。民間の金融機関を補完するかたちで、日本が海外で展開するインフラや資源開発、再エネをはじめとする環境プロジェクトなど、大型案件を中心に資金サポートを行っている。

ODA案件においては、政府・外務省に加えて、JICAがプロジェクトの推進役に、JBICが融資・保証役という、いわば「黄金の三角形」が機能してきた。

もちろん、ODAの大半は支援先の政府や住民にとって大きなメリットになってきた。しかし、中には思うような効果が上がらなかったり、逆に地域住民の反発を買ったりするプロジェクトもある。いま、その象徴が、途上国への石炭火力発電のプラント輸出だ。

「契約済み」を理由に石炭火力プロジェクト続行

例えばインドネシア西ジャワ州のインドラマユ石炭火力発電所・拡張計画では、国際環境NGOのFoEなどが「発電所を農地の中や、漁場に沿った場所に建設するため、現地の何千人もの農民や漁民の生計手段を奪う、あるいは、悪影響を及ぼす」と計画中止を求めた(「JICAさん、インドネシアの未来を石炭火力発電で壊さないで」)

日本政府は6月のG7サミット(先進7ヵ国首脳会議)において「排出削減対策が講じられていない石炭火力の輸出支援を2021年内に終了すること」に合意したものの、「輸出支援終了の対象は新規プロジェクトに限る」方針だ。

経済産業省も日本の意向として「既存プロジェクトについては、すでに相手国政府との契約も終わっているので支援を続けていく」(資源エネルギー庁石炭課)と回答した。

上記のインドラマユ(インドネシア)と、マタバリ(バングラデシュ)の2カ所は、まだ本格的な建設に入っていないが、「契約済み」を理由にプロジェクトを続行する。

JICAはこれらのプロジェクトについて「環境社会配慮ガイドラインに沿って、相手国などが行う環境社会配慮の支援と確認を行いながら事業を実施している」(報道部)とだけ回答した。

市民団体からは、中止を求める声が止まらない。国際環境NGO「FoE ジャパン」委託研究員の波多江秀枝さんは、次のように指摘する。

「インドネシア政府は10月、2030年までの電力供給計画にもとづいてインドラマユのプロジェクトを延期すると公表した。現地政府が不要としたにもかかわらず、契約済みだから支援を続けるとは融通が効かなすぎる」

JBICもベトナムの石炭火力プロジェクトを続行

日本経済新聞の報道(8月24日)によると、JBICは8月、40年度をめどに石炭火力に対する事業融資をゼロにすることを明かした。ただし20年12月に融資を決定したブンアン2(ベトナム)をはじめ、既存プロジェクトについては支援を続けるという。

FoEジャパンの波多江さんは、こう語る。

「ベトナムはCOP26で石炭火力発電の廃止、新規建設停止に無条件で賛同した。今後は早期廃止に向けた議論も予想される中で、座礁資産化のリスクを現地に押し付けるのでなくJBICで取ることが必要だ」

「座礁資産化」とはこの場合、世界的な脱炭素の流れの中で、石炭火力の資産価値が不良債権化することを意味する。金融機関が撤退をためらうのも、実行済みの融資や保証が不良債権になると、経営責任が問われるからだ。

だが、COP26で「脱石炭」に署名しなかった日本政府には、このリスクに対する責任がある。署名国には、日本が石炭火力発電所を輸出しているインドネシアやベトナムも名を連ねる。

国際社会や国民に対して説明責任を果たさず

JICAはオルタナ編集部の取材に対して、次のように回答した。

「当機構は、気候変動対策を重要な経営課題に位置付けており、開発途上国に寄り添いながら、創意工夫を凝らし、脱炭素社会への円滑な移行と気候変動に強靭な社会の構築を目指す。石炭火力については、日本政府の方針に沿って対応する」(報道課)

「気候変動対策を重要な経営課題に位置付けており、開発途上国に寄り添いながら」という表現は、インドラマユやマタバリの状況を見据えたものなのか、疑問が残る。

JBICは「日本政府と相手国政府間の事柄なので、当行としての見解は差し控える」(報道課)とコメントを避けた。これでは国際社会や国民に対して説明責任を果たしているとは言えない。JBICは政府100%出資の株式会社であり、その意味において、株主は国民だからだ。

S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

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キーワード: #COP26#脱炭素

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