【連載】アニマルウェルフェアのリスクとチャンス(11)
「価格の優等生」とおだてられ、長らく価格上昇の波から取り残されてきた鶏卵だったが、今年は少し様相が違ったことに気づいていただろうか。今年の春から夏にかけて、鶏卵価格が高騰し、6月の相場は昨年と比べて1.6倍にまでなり、夏場ではこれまでにない高値を記録した。鳥インフルエンザで多くの鶏が殺されたことが理由だと考えられがちだが、実はそれだけではない。鳥インフルエンザで885万羽の採卵鶏が殺されていた最中に、業界は卵の価格を上げるために産卵中の鶏をさらに多く殺し、補助金を得ていたのだ。(認定NPO法人アニマルライツセンター代表理事=岡田 千尋)
■鶏を殺して価格を調整
「成鶏更新・空舎延長事業」という国の補助金事業がある。これは、需要を上回って作りすぎてしまった卵の数を、その卵を産む鶏を殺すことで一時的に減らすというもので、卵の相場が下がった時に発動するものだ。
採卵鶏は通常、生まれてから120日後に卵を産み始め、1~2年間卵を産み続けた後に屠畜される。卵を産む鶏の数は需要を上回っているようで、価格調整をしなければ価格が下がっていく。そこで、まだ屠畜される時期ではない鶏を殺すことで、産卵数を減らし、供給量を制限し、価格を上げる。
鶏を殺した数に応じて生産者には補助金が出され、屠畜場(食鳥処理場)も補助金を得るという仕組みだ。
2020年5月~9月、まさにコロナ禍がはじまってすぐにこの事業が発動し、鶏が殺され始めた。その直後の2020年11月から2021年の3月までの間に、885万羽の採卵鶏が、鳥インフルエンザが理由で殺された。この数は過去最大であり、大きな打撃を受けたかに見えた。しかし、この数の殺処分では、卵の供給過多は解消されなかったようだ。
鳥インフルエンザの真っ只中、まさに100万羽規模の養鶏場の鶏が殺処分されている最中に、再び成鶏更新・空舎延長事業が発動し、2月まで鶏の殺処分が続いた。
最終的に、2020年度は1425万羽が生産調整のために殺された。この数は過去最多だった。
鳥インフルエンザでの殺処分数と合わせると、2310万羽。これだけ多くの採卵鶏が突如殺処分されたことによって、今年の卵の価格が高くなったのだ。