サステナビリティ報告基準「統一化」の衝撃(前)

【連載】サステナビリティ経営戦略(12)

今月13日まで英グラスゴーで開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、企業のサステナビリティ報告(情報開示)を巡る動きに大きな進展がありました。(サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)

IFRS財団がサステナビリティ報告基準の統一化を表明

今回のCOP26では、国際財務報告基準(IFRS)の策定を担う国際会計基準審議会(IASB)を傘下に持つIFRS財団が、IASBと並列で国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を新設し、これまで乱立気味だったサステナビリティ報告基準の統一化に取り組むことが表明されました。

緊急性の観点から、2022年6月を目処に先ずは気候変動関連の基準が、金融安定理事会(FSB)が設置した気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に基づき策定されます(同年1~3月に原案公表し意見を募る)。

本年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂により、2022年4月に新設される東京証券取引所のプライム市場に上場する企業は、気候変動が企業価値に与える影響についてTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実が求められます。

ISSBが策定する新基準はこの「同等の枠組み」に相当すると考えられますが、TCFD提言よりも踏み込んだ内容となる可能性が高く(TCFD提言では「推奨される情報開示(recommended disclosures)」とされているのに対し、新基準案では「作成者は内容を開示しなければならない(shall disclose)」とされている)、プライム市場上場企業は追加の対応に迫られることになるかもしれません。

気候変動を皮切りに他のサステナビリティ報告基準の統一化も

ISSBは、気候変動を皮切りに他のサステナビリティ領域(生物多様性など気候変動以外の環境領域および社会性領域など)についても統一した報告基準の策定を予定していますが、詳細はまだ分かりません。

TCFD提言では、4つの柱(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)を開示の基本構造としており、ISSBが策定する気候変動を始めとするサステナビリティ報告基準でもこの構造が採用されるものと思われます。

IFRSは財務報告の国際標準として140カ国以上での使用が認められています。IFRS財団の影響力は大きく、将来的には、ISSBが策定するサステナビリティ報告の統一基準である「IFRSサステナビリティ基準」がサステナビリティ報告における事実上の国際標準になっていくことが予想されます(後編に続く)。

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

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