デンマークの選挙は選挙カーなし、市民が討論楽しむ

デンマークのロラン市で11月16日、市議会・県議会選挙があった。この選挙に日本人女性が立候補した。日本の選挙と大きく違うデンマークの地方選挙事情を聞いた。(オルタナ編集長・森 摂)

デンマーク・ロラン市の市議会選挙に立候補したニールセン・北村朋子さん

首都コペンハーゲンから南西に約140キロ。風力によるエネルギー自給率800%、「自然エネルギーの島」として知られるのが「ロラン島」だ。島の面積は1243 平方キロと、沖縄本島(1199平方キロ)より大きい。

ロラン島の西側3分の2を占めるのがロラン市だ。人口は約4万1000人。市議会の定数は25人。その選挙(11月16日投開票)に神奈川県出身のニールセン・北村朋子さんが立候補した。

――なぜ市議会選挙に立候補しようと思ったのですか。

私は2001年からこの島に住んでいます。いまロラン島は転換期を迎えています。ドイツとの間に海底トンネルの工事(2030年完成予定)が進んでいて、工事にかかわる移民が増えています。EU域内からもたくさんの労働者が来ます。

ところがロラン島の人たちは国際化に慣れておらず、島も人口減少が続いているため、島を再び成長させる人材が不足しています。そこで周囲から「あなたは外国人なので国際化に貢献できるはず」と出馬を勧めてくれました。

私もロラン市に20年住んでいるので力になりたいと思った。ずっと人口減少だったのが、これから増える見込みになった。市政を作り直していきたい。ロラン市は1970年代に造船所が閉鎖して以来、人口減少が続いているのです。日本の過疎と同じです。

――デンマークの国籍が無くても市議会に立候補できたのですか。

はい、デンマークでは国会議員の立候補には国籍が必要ですが、市会議員や県会議員は国籍が要らないのです。欧州ではデンマークのほか、スウェーデンとオランダなどの地方議員は国籍が無くても立候補できるようです。

――デンマークの選挙は日本とどう違いましたか。

選挙カーや拡声機を使うは禁止なので、ポスターを貼ったり、討論会をしたり、SNSで拡散したりの選挙活動をしました。日本のような、公設の掲示板が無いので、街路樹や電柱を探して貼るのです。

若い候補者の中には、ポスターもゴミになるので止める人もいます。ある候補者はポスターを6枚しか刷らず、あとはSNSやQRコードとネットで政策を説明していました。

――日本の選挙との違いで、驚いたことは何ですか。

一番驚いたのは、18歳から被選挙権があり、立候補できること。そして供託金がゼロなので、若者や困窮者でも立候補できることです。討論会がとにかく多いのです。

面白かったのは、ある討論会では候補者も入れて350人くらいが参加したのですが、立候補者が一方的に演説をするのではなく、有権者の方がいろんな意見を言うのです。それを朝9時から15時くらいまでやります。

候補者たちはひたすら聞いて、メモして、ディベートのファシリテートをします。こうした討論を経て、候補者たちが有権者の意見を理解するのです。今回は地方議会の選挙でしたが、その討論会を全国にライブ配信します。

とにかくデンマーク人たちはディベートをします。投票する側が意見を言う。18歳から選挙権があるので、中学生たちも、次回の投票のために討論会をします。自分たちで「模擬選挙」をし、大人が出した結果と比較します。

ーー投票率は高いのですか。

今回の投票率は低くて、デンマーク全体で67%、ロラン市で63%でした。ここ3回の選挙で最低でした。いつもは70%を超えるのですが。下がった理由は新型コロナの影響もあると思います。

ーー何人くらい立候補したのですか。

定数25に対して、94人です。女性候補の比率は5割に近いです。世代別では40~50歳代が多い。もっと高齢の人もいます。前回は10歳代もいましたが、今回はいませんでした。

投票用紙は1枚で、個人名と政党のどちらかを書きます。私は「ローカルリスト・ロラン」という政治グループに入っていて、今回、7人(女性2人)の候補者を立てました。当選したのは1人だけで、私は落選でした。

デンマークでは、市会議員と県会議員に同時に立候補できます。デンマークではどの地方も「重複立候補」制です。選挙期間は4週間。お金は掛かりませんでした。供託金がないので、立候補しやすいのです。

――いま日本でも議員報酬や文書交通費が問題になっています。

デンマークの地方議員は、基本的にボランティアです。北欧の地方議会はだいたい無報酬です(国会議員はフルタイムの有給)。議会に出るともらえる日当は年間10万クローネ(173万円)いかないくらいです。

基本的に本業との兼職なので、地方議員になると忙しくなります。よほど「地域を良くしたい」という思いが無いと、立候補には至りません。それでも市の職員や学校の先生、弁護士さん、ソーシャルワーカーなど多様な人たちが立候補します。

――今回の選挙を振り返って感じたことは。

この国の選挙は「お祭り」のようです。米国のような派手さはありませんが、皆が討論をすることを楽しんでいます。意見を出し合うのが楽しいのです。いくら討論しても、ケンカにならないのはデンマークの教育の賜物でしょう。

小さいころから「一人一人違う」「違いがあっても受け止める」「違いがある事を受け入れる」ことを教えるので、みな習慣としてできるのです。ケンカになりようがありません。いじめも少ないと思います。子ども同士で肩もみとかのスキンシップをさせます。スキンシップをした相手にはいじめをしにくくなる効果があるそうです。

選挙違反や買収もほとんどほとんど聞きません。透明性が高いのです。デンマークは、トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)の「腐敗認識指数」の「腐敗が最も少ない国」ランキングで1位です。 選挙の開票の時には、市庁舎に全政党の候補者が集まって、選挙カフェでビールや食べ物が出る。「駆け引き部屋」があって、多数派になりつつある政党は、連立などの相談をする。午前1-2時ごろまでやりますが、その間ずっとお祭りのようです。

森 摂(オルタナ編集長)

森 摂(オルタナ編集長)

株式会社オルタナ代表取締役社長・「オルタナ」編集長 武蔵野大学大学院環境学研究科客員教授。大阪星光学院高校、東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。編集局流通経済部などを経て 1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。環境省「グッドライフアワード」実行委員、環境省「地域循環共生圏づくりプラットフォーム有識者会議」委員、一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事、日本自動車会議「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」選考委員ほか。

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