非行は「助けてのサイン」、必要なのは寛容な心

グッドガバナンス認証団体をめぐるー⑧「子どもシェルターモモ」

虐待を受けた子どもたちが一時的に避難するシェルターや、自立に向けた支援施設を運営する認定NPO法人子どもシェルターモモ(岡山市)。子どもたちを受け入れるために大切なのは、「自分がここにいてもいい」という実感を持ってもらうことだという。東隆司理事長(弁護士)と西﨑宏美副理事長は「奪われてしまった子どもの時間をもう一回取り戻してもらいたい。そのためには、社会が寛容な気持ちで見守ることが必要だ」と訴える。(聞き手・村上 佳央=非営利組織評価センター、山口勉=オルタナ編集部)

いきなり法人を設立、きっかけは弁護士の危機感

――子どもシェルターモモは、弁護士が立ち上げ、子どもたちの法的支援まで行っていることが特徴の一つだと思いますが、活動を始めたきっかけについて教えてください。

東:きっかけは、私も含めて弁護士の危機意識がありました。弁護士は少年事件の「付添人」になることがあります。付添人とは、成人事件の「弁護人」に当たるものです。そうした子たちは親から見放されて帰る所がないことも多く、受け入れる施設もあまりありません。少年院に入って帰ってきても、子どもを受け入れる場所は少ないのです。

ですから、子どもたちの行き場所を確保して、更生できる施設が必要だということは、常に弁護士として問題意識を持っていました。

そこで2008年9月に当法人を設立し、全国で4番目となる子ども用のシェルターを立ち上げました。

10周年記念シンポジウムの様子

――弁護士をはじめ、多様な専門家の方がかかわっておられますね。

東:理事は17人いて、そのうち弁護士は5人です。精神科医、児童相談所の代表や職員経験者、大学の先生、子ども支援団体の方々など多くの方々が加わっておられます。

もともと岡山には少し特殊な事情がありました。私たちがシェルターをつくったときに、岡山県内には、自立援助ホームが全くありませんでした。シェルターは虐待を受けたりした子が一時的に避難する施設で、長期的な支援を行うのが自立援助ホームです。

児童養護施設は原則18歳で退所しなければなりませんが、自立はそう簡単ではありません。そういう子や、児童養護施設での生活が難しい子どもたちの支援の場所がなかったのです。

シェルターを立ち上げたものの、そこを出た子どもたちはどうなるのか――。そうした問題意識もあって、自立援助ホームやアフターケア施設も立ち上げることになりました。多様なキャリアの方にかかわって頂きながら運営しています。

私たちの施設では、15歳から20歳の子どもたちを受け入れています。子どもシェルター「モモの家」は女子用で定員は5人、自立援助ホームは男女それぞれ6人の子たちが生活を共にしながら自立を目指しています。

ときには食事会を開くことも

――助けを求める子どもたちはどのようにシェルターにたどり着くのでしょうか。

西﨑:一番多いのは児童相談所からです。児童相談所は、大体18歳までの子どもについて、虐待や育児放棄を受けた子を保護したり、子を育てられない親から引け受けの相談を受けたりしていますが、そこから私たちが預かるケースがあります。

最近では、子どもシェルターの事務局に直接電話がかかってくることもあります。コロナの影響かは分かりませんが、この半年ほどで、メールやSNSを使って本人が問い合わせてくることも増えてきました。

子どもたちに寄り添い「奪われた時間」を一緒に取り戻す

――どのような子たちが支援を必要としているのですか。

西﨑:15歳で家を追い出された女の子がいました。親がアパートを借りて「あとは自立しろ」というのです。部屋には洗濯機も冷蔵庫も何もなく、フライパンが一つあるような状態でした。

本人は児童養護施設に入ることを嫌がり、年齢を偽って働いていました。ただ、生活は立ち行かないので、一緒に生活保護を申請しに行ったのです。ところが、役所からは「15歳で一人暮らしは無理だから施設に入れ」と言われるだけでした。

しかし、子どもにも権利はありますから、「施設に入りたくない」という本人の意志も尊重しないといけません。でも生活しないといけないしで、「どうしたらいいのですか」と訴え続けました。1年ほどかかり、3回目の申請でやっと生活保護を受けることができました。

モモでは、アフターケア施設も運営しています。自立援助ホームを出た後子ども・若者たちの自立をサポートするのが役目です。彼女はそこをしばらく利用して、今は介護施設で働いています。

その施設の職員から「すごく素直で、気遣いもできる」と褒められて、すごくうれしかったですね。それまで彼女は夜の仕事をしていて不安定でしたから、きちんと働いて認められていることが、余計うれしかったです。

――家庭に問題を抱えた子たちの自立支援は、特有の難しさがありそうですね。

西﨑:虐待を受けたり、生まれたころから乳児院や養護施設で育ったりしていると、いわゆる一般的な家庭生活が送れていません。子どもは家族から自然にいろいろなことを教わるものですが、その環境がなかった子たちが多いのです。

そうすると、人間関係がうまく築けません。親が子どもに乱暴な言葉を使えば、子どもも乱暴な言葉しか覚えません。極端なことを言うと、「死ね」とか「ぶっ殺すぞ」といった言葉でしか、感情を表せない子もいます。そうすると、普通に気持ちを伝えたり、愛情を表現したりすることが難しくなってしまうのです。

私たちの施設に来る子は、義務教育を受けてない子も多いです。そうしたハンディを抱えている子どもたちが、自立して社会生活を送ることは簡単ではありません。

アフターケアの施設では、大人たちが子どもたちに寄り添って、普通のことを覚えて普通に仕事ができるようになるまで援助するようにしています。10年単位の長い目で見ないと、小さなときに受けたハンディは解消しないと思います。

――モモのウェブサイトでは、子どもたちの「奪われた時間」という言葉が印象的でした。その「ハンディ」が「奪われた時間」ということなのですね。

東:当団体の「モモ」という名は、ミヒャエル・エンデの児童文学『モモ』から取っています。『モモ』は時間泥棒の話なのですが、子ども時代にハンディを負った子に、「子どもの時間を取り戻してもらって、きちんと生きていってほしい」という思いを込めています。

大切なのは、社会が「寛容な心」を持つこと

――一方で、非行に走ってしまった子どもたちへの視線は厳しいものがありますね。

東:非行に走ったり、罪を犯したりした子に対して、社会の目がものすごく厳しいと思います。悪いことをしたら、一生、復帰の機会が与えられないのかと思うほどです。

非行は子どもたちからのサインだと思います。「苦しいよ」という心のサインです。

みんな生まれたときから、犯罪者ではないですよね。赤ちゃんは、みんなから「可愛いね」という言葉を浴びて、おいたをして叱られても「大丈夫だよ」と声をかけられて育ちます。

でも、そういった環境になかった子たちが、「自分を見てほしい」という思いを抱えて、非行に走ってしまうのではないかと考えています。罪を犯した大人も、過去をさかのぼってみると、いろいろなものを抱えていて、ためこんだ結果そうなったという面もあります。

「自己責任」とか「少年法は甘い」といったことも言われますが、まずは「なぜこの子はこういうことになったのだろう」と受け止めることが大切ではないでしょうか。

――子どもたちを守るために大人はどうすべきでしょうか。

東:子どもたちの「権利を尊重する」ということは、寛容な気持ちを持つことだと思います。子どもは、意見を言わない、あるいはうまく言えないかもしれません。意見の代わりに行動に移してしまうこともあります。

それを頭から否定して、「こいつら捕まえろ」とか、そんな目でばかり見ていたら、こちらの気持ちは伝わらないでしょう。大人が自分たちを攻撃しているとしか受け止めないですから。

まずは寛容さで受け止めて、彼らに分かる言葉で、悪いことは悪い、やめてほしいと言うしかないと思います。

「ここに居てもいい」安心して過ごせる居場所を作るために

――私たち個人や企業にできる支援はどのようなことがありますか。

西﨑:Amazon「みんなで応援」プログラムに参加しています。物資の支援を必要としている団体や施設が「ほしい物リスト」を公開し、その団体の活動に賛同する方がリストにあるものを購入して応援するシステムです。

こうした物的支援は助かります。頂いた方には、品物をどのように活用させて頂くか、お礼状を送っています。それを見て、次はこれを送ろうと、リピーターになってくれる方もいて有り難いです。寄付される方にとっても、自分が何に貢献できているのか「見える化」されるので、良い仕組みだと思います。

企業に期待したいことは、やはり自立に必要な就労の支援です。問題を抱えた子どもたちは、仕事をすること以前に、一般的な常識がなかったり、人間関係を築くのが下手だったり、仕事をすぐに辞めてしまったりするということがあります。

義務教育を受けていないと文字を読んだり、字を書いたりすることも苦手です。そんな子たちが1人で面接に行くと「何で18歳なのに漢字も書けないのか」と、厳しい目で見られてしまいます。

ですから、いきなり働くことが難しい場合に、スローペースで緩やかな就労を体験できる場や、それを見守ってくれる大人、企業の輪が広がれば良いですね。私たちも継続的にサポートしていくので、企業側でも伴走して頂ける理解があれば助かります。

先ほどの「社会の寛容さ」の話にもつながりますが、寄り添い型の支援は、子どもたちに「本当にここに居てもいいのだ」ということを実感してもらうことにつながると思います。

――最後に非営利組織の信頼性の証である「グッドガバナンス認証」を取得されてから、内部の意識や外部とのやりとりで変化がありましたら教えてください。

この認証を得るにあたっては、準備する書類も多く、当団体でできていなかったこと、事務手続きなど整備が必要だったことが改めて見え、それを整えるきっかけになりました。

団体の活動は自分たちだけでできることは少なく、企業など、外部の方と一緒に取り組む必要があります。その時に何をしている団体か分からないとか、組織基盤がしっかりしていないと、支援対象にならないので、きちんと組織体制を整備するという意味で、「グッドガバナンス認証」の取得はすごく意味があることでした。

◆「グッドガバナンス認証」とは 一般財団法人非営利組織評価センター(JCNE)が、第三者機関の立場からNPOなど非営利組織の信頼性を形に表した組織を評価し、認証している。「自立」と「自律」の力を備え「グッドなガバナンス」を維持しているNPO を認証し、信頼性を担保することで、NPO が幅広い支援を継続的に獲得できるよう手助けをする仕組みだ。詳しくはこちらへ

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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