PM AwardにNTTデータ:インドで結核診断支援

「プロジェクトマネジメント」を通じて社会課題の解決やイノベーションを目指すPMI(プロジェクトマネジメント協会)日本支部はこのほど、日本企業を対象にした「PM Award(アワード)」を創設した。1回目の「最優秀プロジェクト賞」には、NTTデータが米マイクロソフトなどとインドで進める「AIを活用した結核診断へのアクセス支援」が選ばれた。(オルタナ編集部・長濱慎)


画像診断AIを搭載した検診車が、インド・チェンナイ市内の各地を巡回

■検出精度92%のAIで10万人を診断

NTTデータとマイクロソフトなどのプロジェクトは、インド南部の都市チェンナイで2021年1月に始まった。22年3月までに10万人への結核診断サービスの提供を目指す。

プロジェクトはNTTデータのマネジメントのもと、3社のパートナーシップで進行。NTTデータが画像診断AIを、マイクロソフトがクラウドを提供し、インドのディープテックが運用を担う。ディープテックはNTTデータの出資企業で、共同で結核画像診断AIを開発した。

プロジェクトのオーナーはチェンナイ市で、同市が用意した7台の検診車にAIを搭載し、レントゲン技師が乗り込んで各地を巡回する。プロジェクトは社会貢献と位置付けられ、NTTデータが費用を負担し無償でサービスを提供している。

インドは結核感染者数が世界の3分の1(年間約300万人)を占める高蔓延国だ。放射線科医は日本の10分の1(人口あたり)しかおらず、診断を受けられないまま亡くなる感染者も少なくない。

「そこで当社が得意とするAIの画像診断技術によって診断の機会を広げ、医師の負担を軽減し、早期発見と治療につなげたいと考えています」と、プロジェクトマネージャーの及川晃樹(技術革新統括本部 技術開発本部 シニアスペシャリスト)さんは期待する。

結核は国連のSDGs(持続可能な開発目標)において、エイズ、マラリアとともに「2030年までの根絶対象」とされた。WHO(世界保健機関)に設立された「ストップ結核パートナーシップ」や、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)を支援する「グローバルファンド日本委員会」も、プロジェクトに大きな期待を寄せている。

NTTデータのAIは92%の精度で結核を検出し、診断にかかる時間とコストを約90%削減する。さらに、AIの検出データをマイクロソフトのクラウドで解析することで、肺炎など他の呼吸器疾患も発見できる。


画像診断AIの画面

■成功の鍵はスコープの共有

21年11月現在、3万人以上がサービスの提供を受け、約1000人の結核を検出できたという。プロジェクト終了の22年3月まで、残りは約4ヵ月。目標の10万人診断に向けてプロジェクトは大詰めを迎えているが、思わぬアクシデントも経験した。新型コロナウイルス感染症による、インド全域のロックダウンだ。

「海外渡航もままならず、進捗状況の確認は全てオンラインで行いました。プロジェクトが始まってから、パートナー企業とはまだ一度も直接顔を合わせていません。しかしスケジュールや契約形態の見直しは余儀なくされたものの、『スコープ』は変更せずに続けられてきました」(及川さん)

スコープとは、プロジェクトの成果物とそれを実現するためにやるべきタスクを意味する。プロジェクトマネジメントにおいては、スコープを明確にすることがプロジェクトの成否を決めるともいわれる。及川さんとともにプロジェクトを推進する田代裕和(技術革新統括本部 技術開発本部 シニアエキスパート)さんは、こう振り返る。

「技術開発を進めてきた3社は、その技術で社会に貢献したいと強く願っています。プロジェクトの立ち上げ段階から『AIで社会課題を解決する』という目標を共有し、各々がすべきことを着実に実践してきました」

NTTデータは感染症根絶に向けて、マイクロソフトと包括的なアライアンスを組んでいる。ディープテックとは、画像診断AIを新型コロナ診断の支援に活用する取り組みも進めている。

「今後はビジネス展開も見据え、引き続き各社とパートナーシップを組んで『モビリティクリニック』と呼ぶべき取り組みを他の国や地域にも広げていきたい」と、及川さんは意気込みを語る。


NTTデータの及川晃樹さん(左)と、田代裕和さん。「PM Award 2021」授賞式で

■社会変革にはプロジェクトマネジメントが重要

「PMI(プロジェクトマネジメント協会)」(本部・米ペンシルバニア州)は、組織や企業の垣根を超えた「プロジェクト型連携」の普及・啓発を後押しする世界的な非営利組織だ。世界に300以上の支部がある。日本では1998年1月に「PMI東京支部」として設立し、2009年1月に一般社団法人化するとともに「一般社団法人PMI日本支部」と改称した。

「PM Award」は受賞の条件として、優れたプロジェクトマネジメント手法、イノベーションの実現、社会課題解決への貢献などを挙げる。NTTデータのプロジェクトは、これらを高い次元で満たしたものといえるだろう。

「PM Award 2021」ではNTTデータの他に、5つのプロジェクトが「特別賞」を受賞。PMIアジア太平洋地域 マネージングディレクター兼建設部門グローバル責任者のベン・ブリーンは、このように述べた。

「今回受賞したすべてのプロジェクトは、組織やプロジェクトマネージャー、あるいはチェンジメーカーたちがいかに変革をもたらし、より良い未来に影響を与える革新的な功績であるかを反映している。引き続き変革を牽引し、プロジェクトマネジメントが組織にどれだけ効果的な価値をもたらすかを証明し続けるでしょう」

各受賞プロジェクトの詳細は、PMI日本支部の特設ページで見ることができる。

https://www.pmij-award.net/

PMIは、プロジェクトマネジメントに関する資格認定や情報発信も行なっている。グローバルスタンダードな資格となっているPMP(プロジェクト・マネジメント・プロフェッショナル)®は、IT業界を中心に日本で約4万人の取得者がいる。

PMI (Project Management Institute)
https://www.pmi.org/

PMI日本支部
https://www.pmi-japan.org/

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S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

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