水産大手が公表し始めた天然魚介類の持続可能性

マルハニチロが取り扱いを見直すと発表した絶滅危惧種Ⅰ類のオオニベ(Japanese meagre) 写真出典:WEB魚図鑑

日本の大手水産企業が最近、自社が扱う天然魚介類の資源状態について、年次調査をしている。日本水産は2016年分に続き、2019年分の調査結果を2021年9月に公表した。同月、マルハニチロも初調査の2019年度分をまとめ、認証品が6割を占めると発表した。極洋も初めての調査に着手している。この3社は科学的知見に基づき持続可能な海洋管理を目指すSeaBOS(シーボス)の会員である。(オルタナ編集委員=瀬戸内千代)

巨大企業としての責任

日本の水産3社が会員であるシーボスは、科学者の呼び掛けで実現した国際イニシアチブであり、世界の水産大手10社が参加している。世界の海の漁業生産力が頭打ちとなっている今、貴重な天然資源を減らし過ぎないよう、多数の漁船を束ねる大企業による現状把握と課題への対応が求められている。

日本水産によると、国内外のグループ41社が2019年に扱った天然水産資源は、271万トンにのぼる。そのうち28%がMSC(海洋管理協議会)認証品で、全体の51%が持続可能な認証品だった。一方で、IUCN(国際自然保護連合)レッドリストの近絶滅種(CR)のヨーロッパウナギ0.8トンと絶滅危惧種(EN)6種316トンを扱っていた。

マルハニチロによると、国内外のグループ49社が2019年度に扱った天然水産資源は141万トン。15年前からMSC認証取得を推進してきた同社では、59%がMSCをはじめとする認証品だった。一方で4種の絶滅危惧種を扱ったことを確認した。アラスカキチジ3トンとニベ9トンについては、絶滅危惧種(EN)でありながら資源回復計画や漁業管理ルールも存在しないため、取り扱いの見直しを検討すると明記した。

いずれの企業も分析や評価は国際的な水産資源データベースを持つ外部機関サステナブル・フィッシャリーズ・パートナーシップに託した。また調査結果を自社サイトで公開している。

公表資料「マルハニチログループ水産資源調査の実施」より

サステナブル格付けで日本企業は苦戦

10月に開催された「東京サステナブルシーフードサミット2021」で、国際NGOのワールドベンチマーキングアライアンスは、2年ぶりに更新した最新のシーフード・スチュワードシップ・インデックス(SSI)を解説した。

SSIは世界の水産大手30社を対象に、生態系、トレーサビリティ、社会的責任、ガバナンスと戦略の計48指標で評価したもので、首位は前回に続きツナ缶世界最大手のタイ・ユニオンだった。

日本企業は「ガバナンスと戦略」で高評価を得たが、シーボス会員が9位以内に5社ランクインする中、日本水産は17位、マルハニチロは19位、極洋は22位だった。この3社は天然魚を扱う水産企業の規模としては世界のトップに立ち、影響力が大きいだけに、今後に期待がかかる。

chiyosetouchi

瀬戸内 千代

オルタナ編集委員、海洋ジャーナリスト。雑誌オルタナ連載「漁業トピックス」を担当。学生時代に海洋動物生態学を専攻し、出版社勤務を経て2007年からフリーランスの編集ライターとして独立。編集協力に東京都市大学環境学部編『BLUE EARTH COLLEGE-ようこそ、地球経済大学へ。』、化学同人社『「森の演出家」がつなぐ森と人』など。

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キーワード: #生物多様性

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