Change.org、21年大賞に「生活保護の扶養照会廃止を」

オンライン署名サイト「Change.org」は12月20日、「チェンジメーカー・アワード2021」を発表した。この1年間に展開したキャンペーンの中から、光の当たっていなかった問題を顕在化させたこと、メディアの注目度、時事性の高さ、社会への影響度などをもとに32の署名をノミネートし、投票で選出。「生活保護申請時の扶養照会の廃止を求めるキャンペーン」が大賞となった。(オルタナ編集部・長濱慎)

「Change.org チェンジメーカー・アワード2021」特設サイトページより

■コロナ禍と東京五輪という時代を反映した結果に

大賞となったキャンペーンは、生活保護申請者への援助が可能かを、その親族に問い合わせる「扶養照会」の廃止を求めるもの。6万1000筆を超える署名が集まった。提起した稲葉剛さん(つくろい東京ファンド・代表理事)は、このように語る。

「生活保護という最後のセーフティネットを利用したいものの、心理的なハードルとなって利用できない方がいる現状を変えたい。コロナ禍での貧困を、多くの人が自分たちの問題として受け止めた現れではないか」

この署名などを機に高まった「#生活保護は権利」の声を受けた厚生労働省は、福祉事務職員のマニュアルを改め、申請者本人が扶養照会を拒む場合はその事情を丁寧に聞き取る運用とした。

特別賞は、「人々の命と暮らしを守ために、東京五輪の開催中止を求めます」が受賞。弁護士の宇都宮健児さん(元・日弁連会長)が提起したこの署名は、日本のChange.org最多となる46万筆以上を集めた。

各部門賞は、以下のキャンペーンが受賞した。

●「入学しない大学には入学金を払わなくていいようにしてください!」(立ち上がる若者たち)

●「困窮者を生活保護制度から遠ざける不要で有害な扶養照会をやめてください!」(Withコロナの世界で・大賞とダブル受賞)

●「犬の断耳・断尾を動物愛護法で禁止してください!」(声をもたない動物・地球のために)

●「#Justice For Wishma 名古屋入管死亡事件の真相究明のためのビデオ開示、再発防止徹底を求めます」(市民の声を永田町・霞ヶ関に)

●「自民党『LGBTは種の保存に背く』『道徳的にLGBTは認められない』発言の撤回と謝罪を求めます」(なくそう、性の不平等)

●「JTB沖縄による石垣島のポンツーン(浮島)設置計画に反対します」(みんなの声で作るエンターテインメント)

Chamge.org広報・メディアキャンペーンサポーターの松崎ミチコさんは、21年の状況をこのように振り返る。

「生活困窮者を救うはずの制度が機能せず、ジェンダーや環境問題などにおいても日本が世界とはかけ離れた状況であることが改めて可視化され『このまま黙っていてはいけない』と感じた人が多かったのではないでしょうか」

「一方で、東京五輪や衆院選など、私たち一人ひとりが自分ごととして捉え、何かしらのスタンスを持てるようなイベントが重なり、権力者の決断をただ待つだけではなく、自らがソーシャル・アクションに参加することの重要性を投げかけた一年でもあったように思います」

■県立高校への再エネ導入やウミガメ保護に結びついた署名も

Change.orgを起点にしたソーシャルアクションが身を結んだケースがある。

「学校で地球にやさしい電力を使いたい」は、気候変動に危機感を持つ神奈川の高校生が提起。21年10月、川崎市の県立高校で再エネの導入が始まった。神奈川県はここをモデル校として検証を行い、さらなる拡大を検討していくという。

同じく神奈川で立ち上がった「定置網にかかって死んでしまうウミガメを救うため、相模湾の定置網にウミガメ脱出装置をつけてください!」では、県は定置網業者の協力により22年2月から実証実験に参画することを決めた。

松崎さんはChange.orgの存在意義について、「これまでソーシャル・アクションに参加したことがない市民でも、日常で感じた違和感を『そういうものだから』とそのままにせずに声をあげることができる場所」と語る。

「その声が意思決定者のもとに届き、実際の変化につながるための戦略的なサポートを提供しています。声をあげる方法は数多くありますが、私たちはオンライン署名を通じて、誰もが自らの力で社会を変えていくことができると信じられる社会を実現するために活動しています」(松崎さん)

昨年(20年)の大賞を受賞した、元・近畿財務局職員・赤木俊夫さん自死の真相を求めるキャンペーンは現在も署名が止まらない。国はこの問題について12月15日、責任を認め一方的に裁判を終結に導いた。しかし署名は40万筆を超え、なお賛同の声が集まり続けている。

Change.orgは07年にアメリカで創設され、ユーザー数は全世界で約4億人。20年5月、BLM(反黒人差別運動)のきっかけとなったジョージ・フロイドさん殺害の責任を追求するキャンペーンは、1900万筆以上という史上最多の署名数となった。

S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

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