オルタナ総研統合報告書レビュー(8):三菱ケミカルホールディングス

三菱ケミカルホールディングスは「KAITEKI REPORT 2021 統合報告書」において、「新社長の選定プロセス」を開示しています。2021年4月1日付で新社長に、ジョンマーク・ギルソン氏が就任しました。橋本社外取締役、指名委員長は、「“持続的成長”と“CEO選解任の客観性・適時性・透明性”確保を念頭に選任した」と述べました。指名方針だけでなく、決定プロセスの開示にまで踏み込んでいます。(オルタナ総研フェロー=室井孝之)

三菱ケミカルホールディングスの統合報告書

同社の指名委員会の掲げるCEOのミッションは、次の3点と明確化しています。

1.「人、社会、そして地球の心地よさがずっと続いていくKAITEKIというフィロソフィーを堅持しつつ、化学・ヘルスケア・再生医療・産業ガスというグループの経営資源を整理統合し新たな価値を創造しコーポレートブランドを発信できる人材」
2.「理念や創出する社会的価値を投資家目線で着実に落とし込むに強い意思をもつ人材」
3.「しがらみなく従業員のモチベーションを維持しつつ、企業価値を高めていくために必要不可欠なポートフォリオ改革を実践していける人材」

更にCEO候補者30名の面談にあたり、リーダーに求める行動特性として定めたコンピテンシーは、①「変革力」②「倫理基準」③「概念的思考力」④「成果指向性」⑤「長期的視座」⑥「ビジョン伝達力」の6点です。

7名のファイナリストを指名委員会委員5名(内社外取締役4名)でインタビューし、最終的なCEO選任の理由は、「4つのP」です。

1.「Perfomance」:「他社においてコモディティビジネスを高付加価値ビジネスに変革し利益率を約7年間で倍増させた実績」
2.「Potential」:「グローバル市場の中で、化学、食品、創薬まで広範な知見があること」
3.「Passion」:「KAITEKI経営の意義を自らの言葉で語り「財務パフォーマンスの向上」を明言したこと」 4.「Personality」:「「改革のために安易に社外人材を集めるのではなく、既存の人材の意識変革からスタートする」「コミュニケーションとチームワークを重視する」など過去の会社の上司、同僚の評価と自己評価がほぼ合致していたこと」

これらの一連の選定プロセスは、コーポレートガバナンスコード第4章「取締役会等の責務」補足原則4-3②に「取締役会は、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOを選任すべきである」と定められていることに合致しています。

CEOの選任の他にも、東京証券取引所に提出する「コーポレートガバナンス報告書」には「経営陣幹部の選解任と取締役候補の指名の方針」や「選任理由」が記載されており、選解任の情報開示に関してコーポレートガバナンス・コードが定める客観性・適時性・透明性が担保されていると言えます。

一方で、統合報告書の編集に活用されている国際統合報告評議会(IIRC)の「国際統合報告フレームワーク」の主な報告対象者は投資家です。

それゆえ「経営陣幹部の選解任と取締役候補の指名の方針」や「選任理由」についても、「統合報告書」でも開示を検討されてはいかがでしょうか。

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室井 孝之 (オルタナ総研フェロー)

42年勤務したアミノ酸・食品メーカーでは、CSR・人事・労務・総務・監査・物流・広報・法人運営などに従事。CSRでは、組織浸透、DJSIなどのESG投資指標や東北復興応援を担当した。2014年、日本食品業界初のダウ・ジョーンズ・ワールド・インデックス選定時にはプロジェクト・リーダーを務めた。2017年12月から現職。オルタナ総研では、サステナビリティ全般のコンサルティングを担当。オルタナ・オンラインへの提稿にも努めている。執筆記事一覧

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