広葉樹を付加価値に、飛騨市「広葉樹のまちづくり」

広葉樹が握る次世代の価値⑴

「広葉樹のまちづくり」のベースキャンプ”FabCafe Hida”

森林資源について語られるのは、決まってスギやヒノキなどの針葉樹です。しかし、日本の森の約半分は広葉樹です。なぜ広葉樹は置き去りになっているのでしょうか。それは広葉樹の活用を、こと日本で進めるのは、コスト面であまりに割に合わないからです。しかし、その広葉樹を生かしたまちづくりに、極めてユニークな形で挑戦している町があります。広葉樹の多様性、地域の眠れる資源を多層的に価値化するこの取り組みは、サステナビリティを考えるうえでの重要な示唆を数多く投げかけています。(中畑 陽一)

なぜ広葉樹なのか

広葉樹は、椅子やテーブル、本棚など、身近なものに使用されています。しかし、針葉樹に比べて種類が多いうえに、一本一本形も異なり、樹冠の形も伐採に適さないため、急斜面の多い日本での伐採や運搬に多くのコストがかかります。

多様なために、大量生産に適さないのです。その為、日本で使用される広葉樹のほとんどが、平らで広い国土のあるアメリカやロシア、中国などからの安い輸入材となっています。

しかし、岐阜県飛騨市は、あえて広葉樹を中心としたまちづくりに乗り出しています。なぜか。それは、飛騨市の9割以上を占める森林のうち7割が広葉樹であること、ウッドショックや円安などによって国産材の利用が見直されつつあること、そして、森林資源だけでなく、広葉樹専門の製材所や加工設備、そして飛騨の匠の技術を受け継ぐ高い技術など、川上から川下までの広葉樹のサプライチェーンが飛騨市周辺に集積しているといういくつものプラスの要件が重なっているからです。

しかし、さらに本質的な理由があります。それは、飛騨市の名産であるお酒や農産品、薬草といったものにはきれいな水が必須であり、その水を育むのが、豊かな土壌を育む広葉樹なのです。こうしたことから、かつて飛騨市企画課にいた竹田氏が中心となり、「広葉樹のまちづくり」がはじまったのが2014年頃です。そのプロジェクトは、化学反応を起こしながらユニークな形に展開していきます。

広葉樹の森を育む

ここにしかない物語

竹田氏がまず行ったのは、森林資源に詳しく、事業として成り立たせることができるプロとパートナーを組む事でした。そこで白羽の矢が当たったのが、日本各地で森林資源を生かした地方創生を手掛けているトビムシでした。

トビムシは地方創生の成功例として名高い西粟倉村の百年の森林構想を手がけるなど、持続可能なまちづくり実績を重ねていたものの、広葉樹については初めての挑戦でした。そこで組んだのが、デザインの力で見えない価値を形にするプロとも言えるロフトワークでした。この3者が手を組んで2015年に設立した会社が「飛騨の森でクマは踊る」(通称ヒダクマ)というユニークな会社です。

市役所でこの名を提案した際に「まさか通るとは思わなかった」という竹田氏。斬新な名前を受け入れた飛騨市の度量がまず驚きですが、当初は風当たりも強かったようです。

それもそのはず、広葉樹のまちづくりなど、林業ビジネスを知る人に言わせると「論外」なものだったからです。しかも、素晴らしい文化や歴史をもつ街にありがちな、外からの人、新しい取り組みをすぐには歓迎しない風土もあります。

しかし、「広葉樹のまちづくり」は、広葉樹さながらに、内外の多様な個性を結合させながら、徐々に周囲の理解を得て広がっていきます。次回は、そのプロジェクトの核と言える「ヒダクマ」の紡ぎだす多様な価値に迫ります。

飛騨古川に残る瀬戸川と白壁土蔵の町並み
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中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

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キーワード: #生物多様性

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