ビジネスと人権問題、ジェンダー視点で考える

オルタナは12月22日、人権問題に詳しい佐藤暁子弁護士を講師に招き、読者会員向けセミナー「いまさら聞けないビジネスと人権――ジェンダー視点の重要性」をオンライン開催した。人権に関する企業の関心が高まるなか、改めてジェンダーの課題を洗い出し、何が求められているかを議論した。(オルタナ副編集長=吉田広子)

そもそもなぜジェンダーを人権問題としてとらえる必要があるのか。

佐藤弁護士は、「女性は、子どもや先住民族、障がい者などと同じように社会的に弱い立場になりやすい。特に紛争地域では、ジェンダーに基づく暴力や性的暴力のリスクも高い。『国連ビジネスと人権に関する指導原則』にも、ジェンダーの視点は重要性が明記されている」と説明する。

15年前はフランス・米国も日本と同水準だった

世界経済フォーラムが発表した報告書「ジェンダーギャップ指数2021」では、156カ国のうち、日本の総合スコアは0.656で120位だった。「ジェンダーギャップ指数」は、「政治参画」「経済参画」「教育」「健康と生存率」の4分野で男女格差を数値化し、国別に比較したものだ。「0」が完全不平等で、「1」が完全平等となる。

佐藤弁護士は「2006年はフランスや米国も日本と同じ0.65程度のスコアだった。日本はこの15年横ばいだが、フランスも米国もいまでは0.76程度までスコアを上がっている」と指摘する。

ジェンダー視点の重要性を語る

日本の特徴として、女性の年齢階級別労働力率の「M字カーブ」がある。妊娠・出産を経験する年代に労働力率が低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇するという傾向だ。佐藤弁護士は「日本では、女性が家事・育児をするというジェンダーに基づく役割分担が根深いことが、M字カーブを描く原因となっている」と話す。

非正規雇用率も男性の22.2%に比べて、女性の方が54.4%と圧倒的に高い。給与水準も男性を100とした場合、女性は74.3にとどまる(出典:「男女共同参画白書 令和3年版」)。

「経営幹部や高額な賃金が支払われる部門の女性比率が低いこと、低賃金の部門にいる女性の数が極端に多いといった職位や職能における偏り、勤続年数の違いなどが原因と考えられる」(佐藤弁護士)

英国では2017年2月、従業員数250人以上の企業に対し、男女間賃金格差に関する情報公開を義務付ける制度が導入されたという。

「無意識の思い込み」が阻害する

こうしたジェンダーギャップが埋まらない背景には、性別に関するアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)があるという。内閣府の調査によると、男性・女性ともに男性の役割として「男性は家計を支えるべきである」と考える人が多く、男性・女性ともに女性に対し、「育児期間中の女性は重要な仕事を担当するべきではない」と考える人が多いことが分かった。

佐藤弁護士は「異性に対する思い込みだけではなく、自身の性別に関する役割を無意識のうちに強く思い込んでいることも多い」と話す。

「まずはあらゆる場面でジェンダー平等が達成されていないこと、ジェンダー平等は『人権課題』であり、企業が取り組む責任を負うことを自覚してほしい。具体的に社内でどのような課題があるかを調べ、幅広いメンバーで改善点を検討してほしい」と呼び掛けた。

yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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