生き残るブランドにコンシャス不可欠:民間調査

2030年までに販売する全車をEVに切り替えると宣言したスウェーデンのボルボ・カーズはこのほど、5年後の社会に受け入れられるブランドについてグッチやバーバリー、アディダスなどの先進企業の取り組みを調査したレポートを公表した。コロナ禍によって人々の自然や野生生物への愛情が高まったり、ラグジュアリーとサステナビリティの概念が結びついたりしたことで、2025年までには消費者のブランドに求める要求が根本から変わると言い切る。生き残るブランドには「コンシャス・デザイン」が不可欠だと結論づけた。(オルタナS編集長=池田 真隆)

ボルボの新型BEV「C40 Recharge」、内装はレザーフリーを実現した

「サステナビリティの重要性が社会に浸透して、製品の持続可能性への意識はここ2、3年で非常に高まった。現在は、実際にそれが消費者の選択として現れている」――。こう話すのは、ボルボ・カーズの持続可能性調達部門の責任者リン・フォートゲンス氏だ。

こうした消費者のことを、新世代の消費者という意味から「リジェニズンズ(再生市民)」と呼ぶ。ボルボ・カーズではリジェニズンズが消費社会の主役になることで、「コンシャス・デザインの時代」に突入すると仮説を立てた。コンシャス・デザインとは、環境や動植物に配慮したデザインを指す。

ボルボ・カーズは、その仮説を検証したレポートを戦略コンサル会社のフューチャー・ラボラトリーと組み、作成した。グッチやバーバリー、アディダスなどの高級ブランドに加えて、先進的な技術を持つスタートアップ企業などの取り組みを調べた。

レポートでは、こうした調査と消費者の価値観の変化から5年後の社会に受け入れられる「デザインの原則」と「素材」について予測している。

なぜ「コンシャス」なのか

ボルボが発表したコンシャス・デザインについてまとめたレポート

サステナビリティの領域では、whatやhowよりも「why」が重要だ。企業はなぜその取り組みをするのか、この説明が不十分だと社会からの共感は得られない。レポートの内容から、なぜいまコンシャス・デザインなのか読み解いていく。

背景にあるのは、世界的に起きている「脱炭素の潮流」と「自然や野生生物への愛情の高まり」、そして、「テクノロジーの進化」だ。まず脱炭素の潮流についてだが、11月中旬に閉幕したCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)で強調されたように「脱石炭」の流れは世界で加速している。

地球温暖化の主要原因とされる二酸化炭素の排出を抑えるビジネスモデルを企業は追求し、これまでの「採取」-「作成」-「使用」-「廃棄」という直線的な消費モデルからの脱却を目指す。そこで注目されているのが、再生可能な素材を使った循環型経済(サーキュラーエコノミー)だ。

このモデルは製品の価値を新たに見出すだけでなく、脱炭素にも寄与する。2021年の「サーキュラリティー・ギャップ・レポート」では、循環型経済戦略によって、世界の温室効果ガス排出量は39%削減すると発表している。

ボルボ・カーズでは循環型経済の原則を採用して2025年以降に年間250万トンの二酸化炭素排出量を削減するとともに、毎年約126億円のコスト削減を目指す。2040年までに完全な循環型ビジネスに移行することを目標に掲げる。

こうしたサステナビリティの動きとラグジュアリーはこれまで以上に密接な関係になる。ボルボ・カーズでサステナビリティ・ディレクターを務めるスチュアート・テンプラーは、「将来的に、サステナビリティとラグジュアリーは切っても切れない関係になるでしょうし、おそらくすでにそうなっているでしょう」と語っている。

米国では3人に2人が「動物福祉」を商品の選択基準に

次に野生生物への愛情の高まりだが、これはコロナ禍によって急激に高まった価値観の一つだ。長期化するコロナ禍でライフスタイルが一変したが、ストレスを癒す存在として自然や野生生物が注目されだした。

自然への需要はコロナ前からあった。オーストラリアやカリフォルニアでの山火事など世界各地で起きる災害や異常気象によって、石炭や水を使う原料ではなく天然素材を選ぶ消費者の動きはあった。この動きが、コロナ禍によってさらに強固になった形だ。

消費者の野生生物への愛情の高まりは、企業に動物福祉(アニマルウェルフェア)への対応を求めることにつながった。「ウェルフェア・クオリティ・ネットワーク」の調査では、スウェーデンでは消費者の83%、英国では73%が動物福祉を重要視していると回答した。

さらに、米・ユーガヴ社の調査では、米国人の約3分の2が、動物福祉の面で評判の悪い企業から食肉を購入する可能性は低いと答えた。ヴィーガン市場が伸びていることも、この動きの一環だ。

ボルボ・カーズでは、こうした世界的に起きている動物福祉の潮流に対応し、今後開発する電気自動車には皮革(レザー)を使用しないことに決めた。「インフィニウム・グローバル・リサーチ」は、皮革の代替品に対する需要として、ヴィーガン・レザー(非動物性レザー)市場は2025年までに約9兆4千億円に達すると予想している。

C40 Rechargeのインテリアではリサイクル素材を使ったマイクロファイバーシート、ハイテク合成素材であるマイクロテックのコントラストによる新シート素材を採用した

自然を食い潰すビジネスモデルから、自然と共存するモデルに切り替えることで、新たな市場を生み出す。世界経済フォーラムは、国や企業が自然を優先する解決策を講じれば、2030年末までに年間約1,083兆円(8.2兆ユーロ)の市場を生み出し、3億9500万人の雇用を創出できると発表した。

生産者の顔も排出量も瞬時に見える化へ

三つ目のテクノロジーの進化だが、これは複雑化するサプライチェーンの透明化だけでなく、素材の排出量の透明化にもかかわっている。具体的な技術が、ブロックチェーンやIoT、無線自動識別(RFID)などだ。

今後数年でこれらの技術が世界で導入されていくにつれて、何重にも連なり特定することが困難だったサプライチェーンを透明化し、原材料や供給業者、排出量などの情報が瞬時に分かるようになる。

例えばバーバリーはIBMと共同で、消費者が衣類のライフサイクルを把握できる新しい製品追跡システムを開発した。消費者は製品に付いたタグをスキャンすることで衣類の生産過程を追跡できる仕組みだ。

もともと、サプライチェーンの透明化を求める声はあり、テクノロジーの進化によってその期待に応えられるようになったのだ。

実はボルボ・カーズは、自動車メーカーとして初めて、バッテリーの原料であるコバルトのグローバル・トレーサビリティーをブロックチェーンの技術を駆使して可視化した先駆者だ。改ざんができないブロックチェーンの特性を活かして、原材料のサプライチェーンの透明性を高めた。

電気自動車だけでなく携帯型電子機器や充電池などに使うコバルトを採掘する鉱山では子どもたちが劣悪な環境で働かされている。世界のコバルト供給量の半分以上は、コンゴ民主共和国で産出されているが、国際労働機関は、「ここでは7歳の子どもたちが、暴力、恐喝、脅迫を受けながら、生命の危険にさらされて働いています」と指摘している。ボルボがブロックチェーン技術でサプライチェーンを可視化した背景には、正しい労働環境の下で採掘されたコバルトを使用していることを透明性をもって世間に示そうとしているのだ。

さらに、同社初の電気自動車「XC40 Recharge」の全カーボン・ライフサイクル分析結果を公表した。

これによると、内燃機関を搭載した同等の車両よりも二酸化炭素排出量を少なくするには、使用する電力構成により47,000~146,000キロメートル以上を走行する必要があることが記述されている。

「透明化」は消費者や取引先、NGOなどから信頼を獲得することにつながる。ボルボ・カーズのサステナビリティ・ディレクター スチュアート・テンプラーは、「すべての業界が監視の目にさらされている。消費者からの信頼を受け、同時にメディアや投資家、NGOからの信頼を得るには、透明性が必要不可欠だ」と語る。

SNSなどの普及によって、ITリテラシーが高い消費者は増えている。政府やジャーナリスト、企業のウソを見抜く力にも長けている賢い消費者といえよう。

信用不安が高まる中でも、まだ企業には期待が集まる。そのため、企業には言行一致が求められる。例えば、テレビCMで女性の活躍を声高に訴えても、役員の女性比率が低いと共感は生まれない。

透明化した社会で消費者とブランドが信頼関係を構築するには、倫理的な振る舞いは前提条件なのだ。

レポートでは、これら3つの背景が合わさり、コンシャス・デザインの時代へと突入していくと主張する。では、次にコンシャス・デザインにどう取り組むのかを説明していく。

レポートでは、コンシャス・デザインの実践方法として、「素材」と「デザインの原則」の2軸で紹介している。

素材に関しては、3つのポイントにまとめられる。それは、「責任ある調達」、「生物多様性の回復」、そして、「新素材の開発」である。

責任ある調達:大きな可能性を秘めるリネンとウール

背景でも触れたように、テクノロジーで透明化できるようになった時代では、倫理的な調達かどうかは一瞬で見抜かれるようになる。

そうした状況において、注目の素材は、ウールとリネンだ。天然繊維のウールは生まれながらの難燃性を備えており、化学薬品もプラスチック素材も加える必要がない。

亜麻を原料とする植物繊維リネンも注目の素材だ。亜麻の栽培には灌漑や汚染を引き起こす化学薬品をほとんど使わないことから、その持続可能性を評価されている。

環境に優しいということで、耐久性に難があると思われるかもしれないが、リネンはその点も問題がない。丈夫で耐久性があり、低刺激性や通気性に優れ、体温調節機能も持っている。つまり、極めて汎用性が高い素材ということがわかっているのだ。

そのため、リネンは業界を超えて支持されている。ボルボ・カーズのセシリア・スターク シニア・デザイン・マネージャーは、自動車分野においてリネンが「大きな可能性を秘めている」として、カーボン・ファイバーの代わりになる可能性さえあると話した。

生物多様性の回復:過熱する代替レザー開発

コンシャス・デザインには生物多様性の回復にも寄与する素材が必要だ。その象徴がレザーだ。世界のスタートアップ企業で、レザーに変わる新素材としてバイオ素材の代替レザーをつくる動きが活発化している。

ベトナム人デザイナーであるウィン・トラン氏が開発したバイオ素材の「トムテックス」は、廃棄された甲殻類の殻や使用後のコーヒー粉からできている。この生地にはエンボス加工を施すことができ、本物のレザーと同等の耐久性を持ちながら、生分解性にも優れている。

コペンハーゲンを拠点とする素材メーカー ビヨンド・レザー・マテリアルズ社は、独自のアップル・レザー「リープ(Leap)」を発表した。

さらに、新世代のデザイナーは廃棄物を有効利用するだけでなく、これまで利用されてこなかった素材に目を付け始めた。デザイナーのフィリップ・リム氏は、工業デザイナーのシャーロット・マッカーディ氏と協力して二酸化炭素を吸収する藻類を使った高級ドレスを製作した。

藻を使ったバイオ・プラスチック製の葉が、植物繊維でできた生分解性のベース・レイヤーに縫い付けられている。このドレスには、合成繊維、染料、プラスチック製のスパンコールなど、石油由来のものを一切使用していない。

新素材の開発:アディダス、「繭のように」軽いシューズ

新素材の研究開発も進んでいる。アクスファンディション社によると、2050年までに新たな繊維の世界的な需要は150%増えると予測している。この需要を満たす素材は、脱炭素の潮流や資源の枯渇から考えて、これまでの化石由来のものではなく、環境や生態系に配慮した素材になるだろう。そこに新素材も見込まれる。

素材技術の企業であるボルト・スレッヅ社は、アディダスやステラ・マッカートニーなどのブランドと共同で、菌糸を使った独自のレザー「マイロ」を開発した。菌糸体は、動物の皮革からレザーを作るプロセスに比べてわずかな時間と資源で成長する。倫理的で持続可能な特性も兼ね備えており、新素材として期待が集まる。

アディダスは「ストラング」と名付けた業界初の独自のテキスタイルと製造プロセスを開発した。その製造プロセスではアスリートのデータを入力することで、さまざまな種類の糸を任意の方向に、正確に配置することができる。

さまざまな種類の原糸から2千本以上のより糸に織り出すことができるロボットを使うことで、余分な素材を最小限に抑えながら、足の周りをシームレスに包み込む繭のような軽いシューズを生み出した。

セントラル・セント・マーチンズ大学で持続可能な未来のためのデザインを教えるキャロル・コレット教授は、世界のラグジュアリー・ブランドが「再生」への投資を注力していると強調する。

「いま、再生のための研究開発に資金を提供していないブランドは、2030年には存在していない。パラダイム・シフトが起きている」

「循環」「再生」「透明性」「協働」:コンシャス・デザインの4原則

最後に紹介するのが、「デザインの原則」だ。レポートでは、コンシャス・デザインの原則は4つあると述べている。

一つ目が、循環型経済(サーキュラーエコノミー)だ。伝統的な大量生産・消費に対応した直線型の消費モデルではなく、「所有」から「利用」に重きを置いた循環型のモデルを目指す。

二つ目が、再生可能な調達力だ。原料の調達に際して、環境資源や生態系の「保護」を越えて、「再生」することを意識する。

三つ目が、全体の透明性だ。テクノロジーを導入することで、サプライチェーンにかかわる一連の情報を追跡可能にする。

最後の四つ目が、オープン・ソース・サステナビリティだ。サステナビリティの取り組みには「正解」はない。その時々の状況に応じて、様々なパートナーと連携して最適解を作り出すことが重要だ。そのため、技術開発の過程で得た知見などは共有して、常に社会全体で進歩していくことを心掛ける。

これからの5年間で起きる4つのこと

以上がコンシャス・デザインについての説明だが、レポートの結論として、「このような未来を促進するためには、まず新しい素材の開拓が必要です」と結んでいる。

その上でこれからの5年間で次のことが起きると予測した。

• 自然への感謝の気持ちを新たにすることでリネンのような天然素材の復興を後押しし、時代を超越した極めて強力な特性を持った究極のラグジュアリーとなります

• 廃棄された素材が、単に新しいものではなくより良いものに生まれ変わることで、新たな価値と名声をもたらします

• 生物多様性を回復させ、環境を再生させることができるポジティブ・インパクトを持った素材が増えていきます

• 実験的なイノベーションの新しい波は、これまで利用されていなかった資源を利用し、素材の可能性を押し広げることになります

この予測をもとにボルボ・カーズでは、新しい素材を取り入れる挑戦を続けていく。例えば、レザー・インテリアの代替として、バイオ・ベースのリサイクル素材を使用した新素材や、リサイクルされたペットボトルを原料にしたテキスタイルなどだ。さらに、スウェーデンやフィンランドの持続可能な森林で採取されたバイオ由来の素材やワイン産業でリサイクルされたコルクなどの可能性も探る。

持続可能な天然素材やリサイクル素材を確実に利用することができたら、エコ・システムの構築にも挑むことを忘れてはいけない。

直線的な消費モデルから閉ループ・システムに移行し、事業に循環の原理を組み込むことを改めて強調した。

レポートを作成したフューチャー・ラボラトリーのマーティン・レイモンドは、長期化するコロナ禍で、「社会がリセットされ、新しい非日常を受け入れる機会を得た」と話す。コンシャス・デザインはその新しい非日常への道筋を示しており、世界を変える指針だと語った。(PR)

「コンシャスデザインの台頭:明日の素材についてのレポート」の完全版は、こちらからダウンロードいただけます。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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