「ケアする」というラディカルなアクション

多様で健康的なファッションの未来を考える(11)

「REPAIR IS A RADICAL ACTION(修理は急進的な行為)」――。これは製品をより長く使いつづけられるようリペアなどのサポートを行うパタゴニアのプログラム「Worn Wear」が掲げているメッセージである。気候危機への対策として「壊れたら直す」という行動は、あまりにも素朴に思えるかもしれないが、最新のテクノロジーや素材に期待するだけでなく、今日から、今から、誰もが始められるこのアクションが実はもっともパワフルかもしれない。(一般社団法人unisteps共同代表=鎌田 安里紗)

「ケアする」というラディカルなアクション

「サステナブルファッション」というキーワードから連想されるのは「オーガニックコットン」「再生ポリエステル」など、素材に関するトピックであることが多い。しかし、「衣服を1年でなく、2年着ることで年間のCO2排出量を24%削減できる」というデータもあるように、衣服の寿命を伸ばす、ということはもっとも気軽に始められるサステナブルなアクションである。

まず、素材にあった適切な洗濯を行うだけで、大幅に衣服を延命することができる。摩擦を抑えるために洗濯ネットを使用する、手洗いが好ましいものは手で洗う、直射日光に当てず陰干しする、など。

そもそも、洗濯の回数はそんなに多くなくていい。肌に直接触れる衣服はこまめに洗濯する必要があるが、それ以外の服は洗濯の回数を抑えるだけで痛みを防ぐことができる。

また、ニットやコートは毛玉ができる前にブラッシングしておくだけで綺麗な状態のままキープすることができる。

手洗いやブラッシングは手間がかかるため、忙しい日々の中で実践することができないという声を耳にする。もちろん、ものすごく仕事が忙しい時期や、小さなお子さんとの暮らしの中で実践することは難しいかもしれない。

一方で、その時間を取ることができるが、その選択肢が浮かばないだけ、という人もいるはずである。私自身がその1人で、ケアをするという、あまりにも素朴な行為に長らく目を向けたことがなかった。

しかし、ケアすること・修理することの奥深さと面白さを知ってからは、ファッションを楽しむということの新たな側面に出会ったような感覚がある。帰宅してハンガーにコートをかけ、ブラシをかけていると服に対する愛着が深まる感覚や、お直し屋さんで修理してもらった服が帰ってきて、その服との関係性が更新される感覚は、日常の満足感を高めてくれる。

また、衣服の寿命は、ひとりの人間がまっとうさせなくても良いはずである。衣服は、物理的な寿命よりも、情緒的な寿命の方が短いとも言われるが、どうしても飽きてしまうのは仕方がないこと。その時に、フリマアプリや衣服の交換会で次の人に気持ちよく受け継げるためにも、衣服を綺麗な状態でキープしておくことは、意味のあることである。

「サステナブルファッションについて何から実践すればいいですか?」と聞かれた際に、「日々のケア」と回答をすると、拍子抜けされてしまうが、ケアをすることこそが実はもっともラディカルなアクションではないだろうか。

Carbon Trust Analusis based on data from Peter Grace, Queensland University of Technology; BCG analysis; Well Dressed(2006)

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鎌田 安里紗(一般社団法人unisteps共同代表)

一般社団法人unisteps共同代表。衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響を意識する”エシカルファッション”に関する情報発信を積極的に行い、ファッションブランドとのコラボレーションでの製品企画、衣服の生産地を訪ねるスタディ・ツアーの企画などを行っている。暮らしのちいさな実験室Little Life Labを主宰。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。環境省「森里川海プロジェクト」アンバサダー。【連載】多様で健康的なファッションの未来を考える

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