元THE BODY SHOPジャパン社長の木全ミツさんを偲ぶ

元国連公使で「ザボディショップ(THE BODY SHOP)ジャパン」初代社長の木全(きまた)ミツさんが昨年12月16日に亡くなりました。85歳でした。木全さんにはCSR検定3級公式テキストを執筆頂くなど、私も大変お世話になりました。(オルタナ編集長・森 摂)

木全さんは東京大学医学部卒。1960年、労働省(当時)に入省し、労働大臣官房審議官、国連公使などを務めました。英THE BODY SHOPの日本進出を進めたイオングループの岡田卓也社長(現・名誉会長)に請われ、1990年にイオンフォレスト(現・ザボディショップジャパン)の創業社長に転じました。

私が最初に木全さんにお会いしたのはオルタナ創刊直後の2007年ごろです。「雑誌のコンセプトはとても良い。しっかりやって下さい」と励まされました。その後の2014年3月、『CSR検定3級公式テキスト』を新たに発刊する際、同テキスト3章の5「ダイバーシティ&インクルージョン」を執筆頂きました。

2014年当時は「ダイバーシティ」も「インクルージョン」も日本での認知度は低く、私は何か訳語を付けようかとも思いましたが、木全さんの「このままの英語で広めましょう」との意向に沿いました。そして二つの言葉は2020東京オリンピック・パラリンピックを機に日本でも広がりました。

そのTHE BODY SHOP創業者アニータ・ロディックの書籍「ボディ・アンド・ソウル」(日本語版・ジャパンタイムズ社刊、1992年)を頂きました。おそらくはジャズの名曲「ボディ&ソウル」に掛けた書名で、ザボディショップの創業ストーリーを見事に書き連ねています。

ザボディショップのアイコニック製品「ボディバター」

アニータは創業時から「動物実験をしない」「環境や人権問題に取り組む」「コミュニティトレードを進める」などの強い理念を社内外に発信してきました。この著書にも、見事な表現があります。

「あらゆるビジネスが『女性』の考え方、すなわち愛、思いやり、直感といった資質で動かされれば、計り知れない改善がもたらされるでしょう」

ダイバーシティに優れた組織は生産性が高いことは、多くの経営者から異口同音に聞きました。女性である木全さんをボディショップジャパンの初代社長にスカウトした岡田卓也さんの先見性も素晴らしいと思います。

「ステークホルダーという言葉を最初に使ったビジネスパーソンはアニータだった」という言葉も木全さんから聞いた記憶があります(諸説あり)。

木全さんは2002年、NPO法人「JKSK 女性の活力を社会の活力に」を設立し、初代理事長に就任しました。「貧困問題の解決は女性の教育からよ。女性がしっかり教育を受けたら、その国の経済や社会は良くなるのよ」と仰っていました。

世界では、貧困のために女の子を働かせる国がまだ多くあります。木全さんの遺志を継いで、この社会課題が解決に向かうことを願ってやみません。

アニータは2007年9月、64歳の若さでこの世を去りました。木全さんとアニータは今ごろ天国で、環境や人権問題について高らかに議論しているかもしれません。木全さんのご冥福を心からお祈り申し上げます。

森 摂(オルタナ編集長)

森 摂(オルタナ編集長)

株式会社オルタナ代表取締役社長・「オルタナ」編集長 武蔵野大学大学院環境学研究科客員教授。大阪星光学院高校、東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。編集局流通経済部などを経て 1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。環境省「グッドライフアワード」実行委員、環境省「地域循環共生圏づくりプラットフォーム有識者会議」委員、一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事、日本自動車会議「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」選考委員ほか。

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