普段、我々が使用する公共系サービスには、障害者や高齢者にとって、使いづらく、そういった方が取り残されているケースがいくつかある。例えば、次の2点がある。

・公共機関が提供している端末・Webサイト・アプリなどが読み上げに対応していないため、視覚障害者が操作をしたり、内容を理解したりすることができない。

・公共機関が提供している説明の動画などに、字幕や手話がなく、音声のみなので、聴覚障害者が内容を理解したりすることができない。

公共系サービスは、公共調達によって、製品・サービスが調達されます。今回は、この公共調達における問題について、考えてみたいと思います。

公共調達とは

「公共調達」とは、行政サービス、公共サービス、市民社会サービスなどの公共系サービスに必要な製品・サービスを調達することです。

公共調達はGDPの38.7%(*1)の規模であり、政府は企業にとって最大の顧客です。公共調達要件は市場全体への影響が大きく、民間向けへの製品・サービスにも影響があります。公共調達で制定した仕様は、民間向けへの製品・サービスにも実装される可能性が高いです。

*1:政府調達額:2019年 OECD統計
また、サスナビリティの観点からも公共調達への注目が高まりつつあります。

公共調達の課題

しかし、そんな公共調達にも課題があります。それは、「環境・社会・経済」を包括した調達基準が未策定ということです。

例えば、“誰一人取り残さない”というSDGsの目標10「人や国の不平等をなくそう」への対応などで、不十分な面があります。

公共調達と法規制のつながり

公共調達に関して、法規制が行われているのは、現状、3点(環境分野:2点、社会分野:1点)となっており、社会分野や経済分野での対応が不十分な状況です。

2000年5月制定:グリーン購入法
 公共機関の環境負荷低減製品・サービスの調達を行う (国は義務、地方自治体は努力義務)

2007年5月制定:環境配慮契約法
 公共機関が価格のみでなく環境性能を考慮した調達を行う(国は義務、地方自治体は努力義務)

2013年4月制定:障害者優先調達推進法    
 ・公共機関が製品・サービスを調達する際、障害関連施設からの優先調達を行う努力義務
 ・競争入札において、入札への参加資格者を決定するにあたり、対象となる企業の障害者雇用率の達成状況などを考慮した選定を行う

情報アクセシビリティとは

情報アクセシビリティとは、ICT機器、サービスを支障なく操作又は利用できる機能を備えることにより、障害者等が情報を支障なく取得及び利用し、また、その意思を表示し、並びに他人との意思疎通を図ることができるように、社会側の障壁を取り除くことです。Webアクセシビリティも情報アクセシビリティの一部として考えられます。

各国の公共調達状況

欧米は、公共調達に情報アクセシビリティ要件を義務化していますが、日本は、規格があるのみで、義務などの強制力が働かないのが実情です。

アメリカの状況
リハビリテーション法(Rehabilitation Act)第508条にて、開発・調達・維持・使用する電子技術および情報技術について、アクセシビリティを保証することを義務としている。

ヨーロッパの状況
欧州アクセシビリティ法(European Accessibility Act: EAA)により、ICT分野などにおいて、アクセシビリティ基準に関わる加盟国の法規制を統一し、欧州連合加盟国は、EAAをベースに国内法規制を罰則規定も含めて制定し、2025年までに全面施行しなければならないとしている。

日本の状況
JIS規格(JIS X8341)があるが義務ではない。また、障害者基本法、障害者差別解消法にて情報アクセシビリティ向上についての言及はあるが強制力はない。

対応メリット

公共調達の要件に情報アクセシビリティ対応を追加することで、得られるメリットは次のとおりです。

公共機関
情報アクセシビリティに対応により、行政情報や防災情報などを円滑に届けることで市民のQOL(生活の質)向上や窓口対応の効率化(人口減への対応)につながる。

民間企業
情報アクセシビリティ対応することで、社会からの信頼とリスペクトを獲得し、企業価値向上につながる。また、情報アクセシビリティ対応を義務化している欧米にも対応することで、グローバル対応が可能になる。

公共調達に対する提言書

このような状況を鑑みて、政府の「ビジネスと人権に関する国別行動計画」(National Action Plan)に市民社会の立場からエンゲージ(参画、協議)していくことを目指す市民社会組織により構成されている「ビジネスと人権市民社会プラットフォーム」は、2021年12月24日に、「公共調達要件に情報アクセシビリティを追加要望する提言書」をリリースしました。

提言書のポイントは、次の2点です。

  • 「ビジネスと人権に関する行動計画」の実施のために、公共調達に情報アクセシビリティ要件として、情報アクセシビリティ自己評価様式 (通称:日本版VPAT)(*2)に対応すること
  • 公共調達策定プロセスにおいて、関係するステークホルダー(障害者を含む)と十分な協議を必ず行うこと

*2:日本版VPAT(Voluntary Product Accessibility): 企業がJIS規格(JIS X 8341) 、米国リバビリテーション法508条技術基準、欧州アクセシビリティ法技術基準から自由に選択して、準拠状況を公表する仕組み。総務省・厚生労働省の共催で進めている『デジタル活用共生社会実現会議』などで検討中。

「ビジネスと人権」の分野において、2020年10月、日本政府はビジネスと人権に関する行動計画を発表しましたが、日本では取り組みが不十分な分野がまだ多くあります。その一つが情報アクセシビリティです。

日本には、情報アクセシビリティを要件とした公共調達(行政が商品やサービスを民間から調達すること)の仕組みがないため、その実効性が全く担保されていません。その結果、障害者が使用できない商品やサービスが公共機関において、普及してしまい、さまざまな場面において障害者の生活がより困難になっています。

本提言は、ビジネス分野において、情報アクセシビリティの適用を拡大することで、障害者の権利をはじめ、人権実現に貢献する意義があると考えています。

本記事は2021年12月24日に開催されたビジネスと人権市民社会プラットフォーム主催の「情報アクセシビリティの重要性〜ビジネスと人権の観点から〜」での筆者の講演内容を再編したものです。

【ウェビナー】12月24日(金)「情報アクセシビリティの重要性〜ビジネスと人権の観点から〜」