人気インスタ「エシカルな暮らし」、運営者は21歳

気候変動や海洋プラゴミ問題などの解説記事やお勧めのエシカルアイテムを紹介する人気インスタグラムアカウント「エシカルな暮らし」は、広告費をかけずにわずか11カ月で30代の女性を中心に約3万人のフォロワーを獲得した。運営するのは、シリコンバレーで起業について学んだ経験を持つ21歳の学生起業家だ。「無理なく楽しく」をモットーに社会問題を発信する。(オルタナS編集長=池田 真隆)  

「エシカルな暮らし」を運営する山内萌斗さん(右下)とチームメンバー

インスタグラムアカウント「エシカルな暮らし」(@ethical_life_official)が30代の女性を中心にフォロワー数を増やしている。プロフィール欄の「毎日エシカルな暮らしのヒントをお届け」という説明の通り、2021年2月10日の開設から毎日欠かさず投稿を行っている。  

30代の女性に話題の人気インスタグラムアカウントに成長した
エシカルな暮らしを実践するための情報を簡潔にまとめた

投稿内容に合った写真に文字を載せた画像を1投稿に付き10枚作成し、読者はその画像を横にスクロールしながら読む。ウェブメディアだと下にスクロールして読むが、横にスクロールする読者体験は、インスタグラムならではだ。  

インフォグラフィックで作っているわけではないが、ちょうどよい長さの文量とその内容を補足するグラフやイメージ写真で、起きている問題の原因や傾向、解決策を紹介している。   直近の投稿では、このような見出しが並ぶ。  

・SDGsが胡散臭く感じる6つの理由
・寄付してはいけない団体を見分ける7つのポイント
・木製品は環境に優しいの?  

文字数が1500文字を超えるものもあるが、「長い」とは感じない。その理由を筆者なりに分析するとこうだ。  

1:小見出しの内容ごとに画像が分かれている
2:そのため、書いてある内容が頭に入ってきやすい
3:内容が批判的でなく、中立な目線から書いてある
4:1つの画像の文字数は多くても200文字程度
5:イメージ写真やグラフもあるので、視覚的にも読みやすい  

電通が2021年3月に発表した消費者調査(10~70代1000人)では、「エシカル消費」の認知度は4人に1人だった。認知度だけでみると、年々高まっているが、「意味まで知っている」と回答した人はわずか5.7%だった。  

まだニッチ分野と呼べる「エシカル」に特化して情報発信を行うが、「エシカルな暮らし」は、エコやオーガニック、サステナブルに興味を持つ30代女性の間で話題となり、着実にフォロワー数を伸ばしていった。アカウントを開設して11カ月だが、フォロワー数は約2万8千人に及ぶ。広告費はかけていないので、純粋なフォロワーだ。  

運営するのは、2019年12月にできたばかりのGab(ガブ、東京・渋谷)という会社だ。経営者は静岡県浜松市出身の山内萌斗(もえと)さん(21)。静岡大学情報学部に在籍するが、現在は休学中だ。専攻はAIやデータサイエンス。自身でプログラミングもでき、すでにいくつかのウェブサービスを立ち上げた経験も持っている。  

山内さんは子どもの頃、将来は教員になることを志望していた。しかし、世の中に与えられるインパクトについて考えた時、「1年で1クラス分だとして、40年でも40クラス分のみ。教員では限界があると思い、教育サービスを作って世界に広めていきたいと考えるようになりました」。  

地元の静岡大学に入学すると起業することを目指して、数々のビジネスコンテストに出場した。そんな中、東京大学の起業家育成プログラム「EDGE-NEXT」の選抜メンバーとして、シリコンバレーに研修に行けることが決まった。  

山内さんのビジネスへの考え方で転機が起きたのはこの時だ。シリコンバレーで数々の起業家や学生、教授と交流した。あるとき、「これからの起業家に必要なことは何ですか」とたずねると、「あったらいいな」ではなく、「なくてはならない」という価値観で事業を構想するべきという教えを受けた。  

自分起点ではなく、社会起点で「なくてはならい」事業とは何か。そう考えた末にたどり着いたのが、「エシカルな暮らし」だった。  

エシカルな暮らしを立ち上げる際に、SNS運用が得意の共同創業者、北川と共にエシカル系のインスタグラムアカウントの傾向を徹底的に分析した。参考とするアカウントを10個挙げて、投稿内容や頻度、フォロワーの動きなどを調べた。  

フォロワーを獲得する方法として、山内さんは「フォロワーが求めている情報に応えるということに尽きます。自分たちの哲学を伝えることは二の次にしました。」と言い切る。マーケティングよりの考えに思い切って振った。  

意識しているポイントは、「色を付けない発信」だ。「個人の裁量で『これが絶対に正しい』、『これは絶対にやってはいけない』とは言わないように気を付けています。誰でも、『無理なく楽しくエシカルな暮らしを実現できる』をモットーに発信しています」(山内さん)。  

現在、山内さんを入れて3人体制で運営している。課題を考察した記事や論文を読み、分かりやすく要約するメンバー、実際に商品を体験しその詳細レビューを投稿に落とし込むメンバー、そして、インスタ運用で培った資産を活かし協業先を広げるメンバーとそれぞれが役割を担っている。  

三井不動産が「エシカルな暮らし」と連携して開いたポップアップストア「NEO〜消費が変わる、未来が変わる〜」、渋谷・MIYASHITA PARKで

アカウントを開設して5カ月後の2021年7月には、インスタグラムで紹介したエシカルアイテムを購入できるECサイトも立ち上げた。顧客データに関心を持つ企業からの問い合わせも増えているという。  

三井不動産は昨年末から1月16日まで「エシカルな暮らし」と連携して、渋谷・MIYASHITA PARKで期間限定のポップアップストア「NEO〜消費が変わる、未来が変わる〜」を開いた。コロナ禍で外出する機会は減ったが、SNSの集客力を武器に催事を盛り上げたい考えだ。  

山内さんは今年中の目標として「フォロワー10万人」を掲げる。エシカル消費の拡大に向けて、「社会実装する立場を担いたい」と強調する。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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